以前「30代後半でも得られる社会人留学のメリット」を記事にしました。
30代後半になるとある程度のキャリアがあるため、実体験を基にして考えを広げることができたり、教室で有意義な発言ができたり、とメリットも色々ありますが、実際に大学院生として生活していくうえでは20代に留学をスタートさせた人々と比較して不利になる・学生としての恩恵が受けられない場面が割とあるのも否定できません。
この記事では、特に30代後半で留学する場合を想定し、筆者が実際に直面した年齢による様々な制約や、新卒・キャリア初期で留学する方々とは大きく異なる点を取り上げます。(一部ヨーロッパ、特にスイスにのみ当てはまるものもあります。)
計画を立てるうえで参考にしていただければ幸いです。
大学院で学ぶ過程で年齢差別をされることはありませんが、それ以外の厳然とした「区別」は折に触れて感じます。
スイス留学の場合、25歳と30歳が取り扱いの分かれ目になっていることが多いです。
学生生活を送るうえで直面する現実
まずは学生生活に関する現実から。こちらは費用面・機会面での負担が大きくなる傾向があります。
応募可能な給付型奨学金が少ない
奨学金(特に給付型)は、応募に際し年齢条件が定められていることが多いです。目安として修士課程は20代まで、博士課程は大体35歳までが上限ライン。
そのため、奨学金を受給できる可能性をあまり高く見積もらず、資金計画を十分に練って留学に踏み出すことが重要で、最悪の場合状況によって貸与型の奨学金(つまりローン)に頼らざるを得ない場合も想定しておく必要があります。
新卒一括採用&年功序列のせいで若者の賃金がとても低いのは奨学金で何とかカバーできるとしても、それまでに応募可能な語学力を備えておくことが必要です(そっちのほうがハードルが高いかも…)。
若者・学生向けサービスはほぼ対象外になる
ヨーロッパでは一般的に若者・学生向けサービスが充実していますが、そこにも年齢制限が付きまといます。
例えばジュネーブ市内の年間乗り放題パスは25歳未満であれば400フラン(運よくキャンペーンがあれば300フランになる場合も)ですが、それ以上になると500フランかかります。
銀行口座についても、学生用口座の場合は口座維持手数料の優遇や提携サービスの割引といった特典が受けられますが、スイスでは大体の場合、30歳までの学生のみが対象です。
留学生向けの保険も、被保険者が30歳以上だと保険料が跳ね上がるケースが多いです。ヨーロッパ留学はできれば25歳までにしたほうが金銭面でのお得が多いです。
そのため、学生という身分であっても優遇が受けられない場面に何度も遭遇することになります。
一部学生寮に入れない場合もある
学生寮によっては入寮できる学生の年齢に制限を設けている場合があり、例えばジュネーブでは一部の寮で35歳(一部30歳)までの年齢制限があります。
大学院生が多い機関で学生寮の入居に際し年齢制限を設けているところは見たことがありませんが、学部生向けと比較するとやはりお高めです。
年齢が高い=ある程度の所得や貯えがある、という考えなら仕方ないのかも。
友達作りが難しい&授業で足を引っ張るかも
大学院進学に年齢制限はないものの、ヨーロッパの大学院の場合、MBAのように職歴を問うプログラムにしない限りは文系・理系問わず学部を卒業してストレートに大学院に進むことが多いようです。そのため(特に)修士課程のボリュームゾーンは20代前半になりがち。
アジア人は童顔のため実は見た目で浮くということはあまりありませんが、会話の内容やノリが全く違うためちょっと孤独を感じる可能性は考慮しておいたほうが良いかもしれません。大学院もなんだかんだ言って情報戦のため、そういった輪の中に入りづらいのは単純にデメリットになりそうです。
なお、人数が少ない学科や、要求水準が非常に高く学生同士で協力しないと厳しいような学科の場合は、自然に集まりが出来るのでこのデメリットは特段気にしなくてもOK。経験豊富な分むしろ頼りにされるかも。
前例主義や事なかれ主義が蔓延する日本組織。海外(特に欧米)のカルチャーは真逆なので、日本で評価されるおとなしさや謙虚さはむしろ障害に。まともな学びの場であれば的外れな発言でも馬鹿にされるようなことはないので、よく分からなくても必ず発言する!くらいの気概が必要です。
日本で働いていた期間が長ければ長いほど日本の考え方から脱するのは難しいですが、それは日本の考え方が深く根付いているという証拠でもあり、それ自体は決して悪いことではありません。違うカルチャーの考え方や立ち居振る舞いを身につけることができれば、既に持っている日本の経験に海外の考え方を加えて自分だけの価値を創造できるようになるかも。
また海外は基本的に年齢を気にしないので、「日本のように年上だから丁寧に接してもらえる」という期待は捨て去らないとストレスが溜まるだけ。このような態度は友達作りから授業の受け方まであらゆるところに影響するので侮れません。
キャリア面で直面する現実
続いてキャリア面。大学院留学は厳しい分プラスになる要素も多いですが、いかんともしがたいデメリットがあるのも事実です。
将来のキャリアに繋がるルートが減る
企業や機関によっては明示的に応募可能な枠に年齢制限を設けていることがあります(明示されていないだけの場合もあります)。そこから外れてしまうとそもそも応募できません。
例えば国連職員への登竜門と言われる外務省の「JPO(Junior Professiona Officer)」派遣制度の応募資格は、日本国籍の場合35歳まで。
日本のJPOは他国と比較して年齢が高い傾向があるようです。準備に長い時間をかける国民性が垣間見えます。
実務経験・マネジメント経験がより厳しく問われるようになる
インターンシップやポジションへの応募について、年齢制限で門前払いされなくとも年齢相応の実務経験やマネジメント経験が問われることがあります。(特にキャリアが10年を超えるとその傾向が強くなると言われます。)
選考を通過するためには、留学までのキャリアと大学院での専攻をうまく結びつけて即戦力アピールをする必要があります。
キャリアが長い場合、大学院の成績よりもどのような科目を取っていたのかや興味関心について聞かれることが多いという噂も。
これはいわゆる日本型雇用でそこそこキャリアを積んできた場合に不利になりやすい点。組織都合の脈絡のない異動や若手が昇進しづらい構造は海外で理解されるがの非常に難しく、うまく説明を付けられないと本人に問題があると判断される可能性もあります。
また職探しは他の学生との席取り合戦。アグレッシブな中国人やインド人といった全く異なる文化を持った人々と同じ土俵で勝負することになります。
特に国際的な舞台を目指すなら、自分の有能さをアピールするスキルは非常に重要で、多少盛るのは当たり前の世界!自分のスキルや能力を誇示(状況によっては誇張)することを良しとしない日本人特有のメンタリティーが障壁になってしまう場合もあります。
レバレッジが効かせにくい
大学院における学びを直接キャリアに活かせる期間が新卒やキャリア初期で留学した方々より相対的に短くなるので、人生へのインパクトはどうしても薄くなります。
留学前の職歴と専攻の親和性にもよると思いますが、卒業後のキャリアを明確に描き、在学中に精力的に動かないと、キャリアダウンになってしまう恐れがあります。
特に日本に帰る場合は、「海外との身の置き方の違い」を再確認しておく必要がありそうです…。
まとめ
今回は30代後半から学位取得のための留学をする際に年齢がらみで直面する現実について取り上げました。
海外では大学院に進学する年齢が基本的にバラバラなため年齢を理由に差別されるようなことはあまりないと思いますが、キャリアパスや生き方はどうしても周囲と同じというわけにはいきません。
特に学部新卒で大学院に進学する学生が多いヨーロッパにおいては、自分のキャリア戦略を強く持っておくのが重要だと感じています。
以上です。
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