スイス・ジュネーブ留学中のMattです。
シンガポール駐在やスイス留学で様々な経験をするうち、「日本人って海外では色々と損をするよなー」と思う場面にたびたび遭遇しました。
今回はそんな場面をいくつかご紹介します。
海外で金銭的に損をする日本人
まずは金銭面から。日本人が海外でダイレクトに損をしたり、日本人が海外では当たり前に支払わなければならないのに日本国内では外国人が支払いを免除されているようなシステムについて取り上げます。
海外旅行&海外生活の全てが高くなる「円安」
これは言わずもがなでしょう。日本円の価値が下がることで購買力が減ります。
円建てで給料をもらう駐在員や円建てで留学資金を工面する留学生にとっては大ダメージ。
「ワーホリで出稼ぎ」という話題が出るようになったのは円安による影響が大きいですね。
不平等の温床?自国民よりも高額な「外国人料金」
海外(東南アジアに多い)では、観光地の入場料などで自国民と外国人で異なる料金(いわゆる「外国人料金」)が設定されています。
このいわゆる「外国人料金」の話題ではタイがよく例として取り上げられますが、シンガポールでも採用されており、例えば国立博物館の入場料はシンガポール人&PR(永住権保有者)は5SGD、外国人はその3倍の15SGDです。
賛否色々あるのは分かりますが、個人的には以下の点で「外国人料金」を導入するべきだと考えています。
- (公営施設の場合)自国民や永住権保有者が支払う税金が維持管理に充てられているので還元すべき
- (公営施設の場合)博物館や美術館といった施設は自国民や永住権保有者の来訪を促した方が国や地方にとってメリットが多い(国・地方への愛着やアイデンティティの形成につながる)
- (私営施設の場合)自国民や永住権保有者向けに料金を安めにしたほうが住民の福祉につながるし、再訪が見込めるため継続的な顧客になる可能性がある
- そもそも渡航費を賄うだけの経済力がある
- 外国人観光客向けサービスには追加の費用がかかる(多言語対応や海外向けPRなど)
- その施設に訪問する価値があれば(あると判断する人が多ければ)外国人料金を払う可能性が高い
導入にあたり根拠が必要という主張には賛成しますが、個人的には完璧な理論武装を行うために延々と議論するよりもさっさと何かしらの根拠を作って「外国人料金」を導入してしまう方が良いと思っています。
一見して合理性があれば差別という批判は当たりませんし、現に「外国人料金」が導入されている施設で外国人観光客がごねているのは見たことがありません。皆さん素直に「外国人料金」を支払って入場しています。
過去にタイで「外国人料金」の差別性が問題になったことがありましたが、これは外国人の見た目のタイ人が「外国人料金」を請求されたことに対する差別(これは「ルッキズム」の問題)。「外国人料金」今でもは当たり前のように適用されています。
まあ観光業の競争力が高いタイだからできるという考え方もあると思いますが…
そもそも「誰からも批判されない政策」なんて存在しませんし、外国(人)からの圧力で「外国人料金」が覆ったなんて話は聞いたことがありません。いったいどこからの批判を気にしているのでしょうか…?
もちろん外国からの圧力で政策を転換しなければならないこともあるでしょう。ただしそれは政府が国内で発生している人権侵害を容認するような態度を取っていたり、政府が人権保護の機能を失っているようなケースが主だと思います。
そもそも国際的にみて「外国人料金」が人権侵害的な制度であれば、禁止する条約が存在してしたり国際機関が介入しているはず。でも「外国人料金」を導入する国はまだいっぱいありますよね。なぜでしょうね?
最近よく話題に上る「インバウンドの高まりにおける飲食店の値上げ」に端を発する「二重価格」は市場原理に基づく議論であり、公共政策的な側面を多分に含む「制度」としての「外国人料金」の議論とは性質が全く異なると考えます。
ただ「外国人料金」と「二重価格」の議論両方にいえるのが、どうやって自国民・永住権保有者と外国人観光客を判断するのか?というところだと思います。
例えばタイでは「見た目」や「タイ語が理解できるか」などの要素でスクリーニングをかけていますが、「タイ語が話せるアジア系観光客」がタイ人料金になったり、「見た目が外国人のタイ国民」に「外国人料金」が適用されたり、運用は非常に不安定。
一方シンガポールでは割引対象となるシンガポール人がIDカードを見せることで「外国人料金」を支払わずに済むシステム。
もし日本で「外国人料金」を適用するなら、間違いないく公平性が高い後者のシステムにすべきだと思います。
そこで問題なのが「日本国籍保有者であることの証明」。現状日本国籍を証明できる書類はパスポートか戸籍謄本くらいしかありません(参考:(国籍関係)日本国籍を証明する書面について:東京法務局 (moj.go.jp))が、日本でこれらの書類を日常的に携帯している人はあまりいないと思います。
なお携帯性で言えばパスポートに軍配が上がると思いますが、そもそも保有率が非常に低く国民の17%しか保有していないというデータ(2023年)もあります。
マイナンバーカードは国籍ではなく住民票と紐づく制度なので、国籍の証明目的には使えません。残念。
この項目では日本人が海外で遭遇する「外国人料金」について取り上げましたが、なんと日本国内に既にあったようです…。でも自国民が外国人よりも高い料金を支払うシステムなので制度の建て付けは全く逆!
奈良県の県立美術館は外国人誘致のために16年前から外国人が無料だそうな(4月から改める予定)。自国民の方が高い料金を支払うシステムなんて聞いたことがありません。それこそ合理性の問題があるのでは。
これって地域住民からの批判とかは無かったんでしょうか。もしくはあっても無視した?
なお無料にした効果は分からないそうです。ひどすぎ。
自国民の数倍が当たり前!外国人留学生向けの学費
欧米の大学(院)では自国民と留学生の学費は数倍違うのが当たり前です。
経済協力開発機構(OECD)によると、国内学生との授業料の差は米国約1.5倍、カナダ約2倍、フランス約15倍。機能的な学生寮や留学生支援の専門スタッフといった充実した体制を整える大学が少なくない。授業料が高くても優秀な学生を集めている。
※太字は筆者による 出典:国立大学、留学生授業料上げへ 環境整え世界で競争力 – 日本経済新聞 (nikkei.com)
例えば修士課程の場合、海外(欧米)大学における学費はこんな感じに設定されています(※LSEではイギリス人と留学生で同じ学費が設定されている場合もあります)。スイスはだいぶマシなほう。
学校名 | 学部・学科 | 自国民 | 留学生 | 差額 |
---|---|---|---|---|
London School of Economics and Political Science (イギリス) 出典:Table-of-fees-2024-25-20Feb24-Updated-Home-PGR-fee.pdf (lse.ac.uk | MSc in International Social and Public Policy (All streams) | £17,624 (約335万円) | £27,680 (約526万円) | £10,056 (約191万円) |
Geneva Graduate Institute (スイス) 出典:https://www.graduateinstitute.ch/fees-financial-aid | 修士課程(全学科) | CHF 5,000 (85万円) | CHF 8,000 (136万円) | CHF 3,000 (51万円) |
University of Tronto(カナダ) 出典:https://web.cs.toronto.edu/graduate/funding-tuition-awards | 修士課程(Computer Science学部) | $8,213.96 CAD (約92万円) | $31,659.96 CAD (約355万円) | $23,446 CAD (約263万円) |
一方、日本では外国人留学生と自国民である日本人の学費は同じ。
つまり、日本では外国人留学生が相対的に優遇されている(自国民よりも高い学費を支払う必要が無い)一方、日本人は自国でも優遇は無く相対的に損をしているようなかたちに。
国立大学は日本人学生と留学生で異なる学費を設定できるようにするみたいです。(国立大学、留学生授業料上げへ 環境整え世界で競争力 – 日本経済新聞 (nikkei.com))
なお国費留学制度については日本に留学する外国人は厳しい選抜を通過した非常に優秀な方々ですし、日本人学生も留学先で恩恵を受けられる制度なので、こちらの制度自体を批判するのはお門違いだと思います。
投資機会の制限
日本人は海外に一定期間居住していないと海外での投資機会が制限されます(一部の投資商品が購入できなかったりする)。これはシンガポールで実際に経験しました。
最近は海外在住者でも帰国予定であればNISAの利用ができるようですが、つまり自国民が海外で投資をして稼ぐのは良くないという考えなのでしょうか。ちょっと意味が分かりません。
海外キャリアで損をする日本人
海外大学院への進学や海外就職・転職でも日本の制度が阻害要因に…
ブランド重視の大学受験と評価方法がバラバラな大学
日本の大学では大学ごと・授業ごとに評価方法や評価基準がバラバラで、おまけに成績が低くても卒業できてしまう。これが海外の教育との接続を考えると非常に厄介な問題になります。
例えばGPAは海外大学院への出願において非常に重要ですが、学生の側にも大学の側にもその認識はあまりありません。就職に関係ないからだと思います。
海外留学を検討して初めてGPAが足りないことを知ってショックを受ける…というケースもあります。
また海外就職では大学での専攻内容が問われます。大学を偏差値やブランドだけで選ぶと、希望の職に就けずに後々後悔するかも…
「メンバーシップ型雇用」で市場価値ゼロ!
日本の大企業で未だに多い「メンバーシップ型雇用」。募集時に職務を限定せず、一括で採用した新卒を職に当てはめていくシステムです。
このシステムでは、職種別採用で入らない限りファーストキャリアもその後のキャリアも選べません。大学での専攻が考慮されないことも良くあるので、会社都合で畑違いの部署を数年おきに転々とするキャリアになることもよくあります。
結果出来上がるのが、一定の職種を究める海外の人事制度と相性の悪い「その会社のことだけしか知らない広く浅い知識を持った人材」。
これでは海外で特に重視される「何が出来ますか?(=あなたはどの道のプロですか?)」という質問には答えられません。賃金や待遇の決め手になる市場価値や価格競争力が明確に示せないので、先方には採用する理由がないということになります。
また大学での専攻と職種が異なる場合は、それも疑念を抱かせる一因に…。
メンバーシップ型雇用のメリットとして広く色々なことを知っていることが武器になるという考え方もあるようですが、部署を数か所ローテーションするだけでゼネラリストが完成するとか、2~3年程度担当しただけでその道を経験したと言えるという発想はさすがに理想主義的すぎると思います。
搾取されやすい日本人の特徴
主に教育によって培われる性質も日本人が海外で活躍するためのハードルを上げる要因のひとつ。
外国語の運用能力が低い
まずはこれ。単純に仕事のアウトプットや人間関係に影響します。海外で外国語能力が低いのは全ての面において損。
必ずしも教育のせいとは言い切れない部分ももちろんありますが、完璧が存在しない、もしくは正解が無限に存在する外国語について減点方式で評価したり、アウトプットが遅くなる原因になる和訳・英訳を中心とした教育はやっぱり改めるべきだと思います。
とはいえ語学力であれば日本国内でも自力で上げることは可能なので、方法次第だと思います。
また、日本人の外国語能力が低いことは日本人が搾取されたり、高いお金を支払うシステムを維持するのに役立っています。
語学留学が活況を呈しているのは、語学力の低い日本人をカモにして外国の企業が儲けられるからですし、出稼ぎワーホリが成立するのは低スキルの日本人が現地人のやりたがらない低賃金・重労働の仕事をしてくれるからに他なりません。
それらの経験を通じてスキルを身につけたり、日本で身につけたスキルを活かせるケースももちろんありますが、そこまで数は多くないでしょう。
学位取得留学は国が学生に対して一定のステータス(学位・就労許可など)を与えるということになるので、入学・進級・卒業に対して非常にシビア。その点卒業後に学位や資格が得られない語学留学は旅行の延長であり留学の範疇には入らないというのが個人的な見解です。
他にも外国語が出来ない人向けに日本語でサービスを提供してくれる会社がたくさんありますね。もちろんほぼ全て割高です。(これは外国語によるサービス全般に言えることなので日本人に限ったことではありませんが)
結局のところ、自らスキルを身につけに行かない限り搾取の構造に絡めとられるのは必然なのです。
「謙虚さ」は舐められる原因に
日本で求められる「謙虚さ」。
日本では一歩引いて相手を思いやる謙虚さを示すことできるのが「大人」とみなされますし、ときには相手からの譲歩や見返りを引き出すために「謙虚さ」をテクニックとして活用することもありますが、海外で「謙虚さ」を見せると利用されたり舐められたりしますし、その後の見返りなんて当然ありません。
日本人同士であれば言外の意味を汲み取ってもらえる可能性が高いので文句を言えばどうにかなるかもしれませんが、国際ビジネスの世界では「ありがとう」で終わり。(多くの場合ではお礼すらないかも)
なお「謙虚さ」が求められる日本社会では自己主張は良くないこととされますが、これは他人が意図を汲み取ってくれる(ことを期待している)から成立するので、議論の場で自分の立場を主張できず結果として損をしてしまったとしても本人の責任です。
日本では意図を汲み取ってくれない他人を責めることが割とありますが、非常にみっともないことです。
以前KYなんて言う言葉も流行りましたね。これも本来は他人が言うことではないです。
「協調性」も搾取される原因に
日本の価値観「協調性」。就活でも重要なファクターとしてみなされる要素です。
しかし、本来の「協調性」の意味するところは共通の目的を実現するために自発的に異なる意見や考え方を受け入れることであって、他人を特定の価値観に従わせるために使われるものではありません。
「協調性」は「従順であること」とは全く違います!
協調性はあくまで自発的に発揮するものなので他人に求めるのは論外ですが、なぜか日本人は他人に協調性を求めます。海外では当然通用しませんし、逆に他人に配慮して必要以上に自分以外の意見に従うことになってしまい結果として損をします。その見返りはもちろん得られません。
海外でももちろん「場の雰囲気に合わせる」「譲歩する」ことはありますが、クラスでのディスカッションのときなどあえて「流れに逆らう」「反対意見を出す」ことで本質を導き出すことが必要なときも多々あります。
「金融知識の無さ」が搾取される原因に
日本ではまともな金融教育が行われていません。
最近はマシなようですが、それでも為替やカード、ローンといった知識は諸外国と比較してかなり差があります。日本国内で蓄財できないだけではなく、海外で日本人が騙される原因に。
ひどいと金融知識のない日本人を同じ日本人がカモにすることがあるようです(東南アジアでよくあるケースらしい)。
ありえない儲け話(高すぎる金利や有名な詐欺スキーム)に引っかかってしまうのも、ベースの知識がないため。
「宗教に関する無知」でも舐められる&搾取される
過去の色々な事件もあって、日本人は宗教に関係する話や宗教自体を毛嫌いする人が多いです。宗教を嫌うこと自体は個人の自由なので他人がとやかく言うことではありませんが、宗教に関する基本的な知識すら学ぼうともしない点はかなり問題。
宗教に関する知識は世界で起きていることを理解するのに非常に役立ちますし、そもそも外国人と接するときには当然のように要求されます。
宗教的タブーは「知らなかった」では済まされないこともあるので、不勉強は危険です。言い訳も通用しません。
アメリカやヨーロッパに限らず、世界の様々な言論は背景に宗教的発想があることが多いですが、当たり前のことなので丁寧に教えてくれる人はほとんどいません。
また宗教に関する基本的知識の不足は怪しげな新興宗教に騙される原因になったりもします。自己防衛のためにも知識は必須。
まとめ
海外で日本人が活躍するには、非常に多くのハードル(制度面・精神面・いろいろ)を超える必要があります。
アジアでも海外の洗礼を受けましたがヨーロッパではまた違った刺激を日々受けており、それらのハードルが非常に高いことを常に感じています。
この記事ではそんな「日本人が海外で損をしてしまうこと」について色々と書いてきましたが、筆者もこれらのハードルを超える方法を模索している途中。「これまでの生活で良いとされてきたこと」と全く違うことを受け入れて自分の一部にする過程は、楽しい反面相応の痛みを伴うものです。
文化的なハードルの超え方や制度批判について書かれた本も色々とありますが、できればこの留学を通じて自分なりの解決策や対策方法を見つけられたらと思っています。
以上です。
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