筆者はこれまで20年近く中国大陸・台湾・東南アジアの中国語曲を聴いてきました。
そのなかでも特に好きなのが、中華圏で随一の人気を誇る台湾のロックバンド、五月天(Mayday, メイデイ)。
五月天の魅力は、馴染みやすいメロディーと深い歌詞。外国のバンドですが、感覚は比較的日本と近いような気がします。歌詞の大半は中国語(一部台湾語)なので、中国語の勉強にも使えます。
ロックのカッコよさだけではなく、人間賛歌とも呼べるような人生についてその尊さを歌ったナンバーが多いのも五月天の魅力。泣けると評判のPVが多いのもこのカテゴリーの特徴で、歌詞をじっくりと噛みしめたい名曲が揃います。
今回はそんな楽曲から、特にこれまで歩んだ軌跡を振り返る楽曲や人生そのものにまつわる楽曲を6つ取り上げます。
その他のおすすめ楽曲についてはこちらの記事をどうぞ!
如果我們不曾相遇 [如果我们不曾相遇/What if we had never met/もしも出会わなければ](2016)
楽曲について
2016年発表のアルバム「自伝」収録曲。
楽曲のテーマ
「もしも出会わなかったら、二人は一体どこで何をしていたのだろう」…
人生は限りない「もしも」の上に成り立っている。かつての恋人について、日々の追憶と感謝の気持ちを歌った楽曲。
アップテンポな楽曲にのせて抒情的なメロディーが巧みに表現されており、センチメンタルな気分を盛り上げます。MVと合わせてみるとさらに切ない気持ちに。
僕らが出会っていなかったら、僕はどこにいただろう?と問うサビがちょっと「東京ラブストーリー」っぽいかも。
MVについて
17歳の二人が出会い、愛のある日々を過ごし、そして離れていく姿が描かれるMV。台北101での五月天のパフォーマンスもカッコイイ。
彼と離れた後も、地球のどこかでまた会えるかもしれない、とずっと想像していた彼女。
でもMVの中で彼女に逢いに来る彼の姿は、いつも分かれたときの若い彼のまま。
きっと彼女が彼と会うことはなかったのでしょう。
乾杯 [干杯/Cheers/乾杯](2011)
楽曲について
2011年発表のアルバム「第二人生」収録曲。
楽曲のテーマ
もう戻れない「いつか」の思い出と、容赦なく進んでいく時間のかけがえのなさと残酷さ。
歌詞を噛みしめるごとに今という瞬間が愛おしく感じられる、人生の時間について歌った楽曲。あの日の「いつか」が今日で、今日が「いつか」なんだ、という歌詞にはハッとさせられます。時間の流れが愛おしく思える楽曲。
軽快なラップと三味線(沖縄の三線?)の音色も印象的。メロディーもちょっと沖縄っぽいような?
カラオケでちゃんと歌えると超気持ち良い曲ですが、未だに成功していません…。
MVについて
病院と傍らで泣いている妻らしき女性のシーンから始まり、学生時代、就職、結婚…とこれまでの人生を少しずつ振り返っていくMV。
途中に挟まる兵役がすごく台湾を感じます。五月天も主人公のバンドメンバーとしてカメオ出演!あと子供がグレちゃうのがリアルで笑った。人生ってなかなか思い通りにはいかないですね…
台湾人の一生を疑似体験するような不思議な感覚が味わえるこのMVは、いわゆる「泣けるMV」として有名です。
筆者の場合、MVの最後の方でこれまでに出会った人々を順に巡っていく場面が一番涙腺に来ます。
轉眼 [转眼/Final Chapter/あっという間](2016)
楽曲について
2016年発表のアルバム「自伝」収録曲。台湾版では最後を飾る曲です。日本語題は「あっという間」。
楽曲のテーマ
あっという間に過ぎる人生の時間、無常について歌った楽曲。人生のストーリーが全て過去の「歴史」になったとき、残るものは何でしょう。目を閉じて思い出を旅するとき、心は舞台になる。
普段は意識しない、人生の時間に限りがあること、傍にいる大切な人々を愛することを思い出させてくれる楽曲。
MVについて
主人公の人生の場面が飛び出す絵本のように展開していく、淡い色使いが印象的なMV。寓話的な構成ですが、ストーリー自体は失ってはじめて気づく大切なものを強烈に思い起こさせる現実そのもの。
最愛の人を失い、主人公もまた人生の最終章に差し掛かったとき、主人公は自分の人生の本を抜け出して過去のページをめくります。そこで展開されるのは、最愛の人を事故から救いつつ仕事一辺倒にならず家族を気に掛けるという「彼が体験しなかった、もしくは選ばなかった過去」。
希望が見える明るいラストですが、彼が実際に人生をやり直せたということなのか、それとも「もしこうしていたら…」という彼の後悔が見せた幻影なのか、は分かりません。
任意門 [任意门/Dokodemo door/どこでもドア](2016)
楽曲について
2016年発表のアルバム「自伝」収録曲。
英語タイトルと日本語タイトルから分かる通り、ドラえもんの道具の一つである「どこでもドア」がモチーフになっている楽曲です。(歌詞の内容はドラえもんとは関係ありません)
楽曲のテーマ
音楽の世界や現実の様々な場所を駆け巡った五月天のこれまでの日々を振り返る楽曲です。
ドアを開ければ行きたい場所に行ける「どこでもドア」を、これまで五月天が実現してきた夢や目標につながる道に重ねています。
もしかしたら、夢は、どこでも行きたい場所に連れて行ってくれるものなのかもしれません。どこでもドアのように。
また歌詞には台湾を含め世界各地の地名が色々と出てきますが、ホームであり始まりの地である台湾への想いがひしひしと感じられます。
歌詞に何度か出てくる行天宮は観光地としても有名なので、足を運んだ方も多いのでは。
MVについて
こちらで紹介するYouTube映像は「RE:LIVE 現場就是起點版」と名付けられたライブ版。
2011年から2020年にかけて行われた世界ツアー「Just Rock It! 就是世界巡回演唱会」の一幕。映像はおそらく2017年1月1日に台北で開催された回のものです。
洗衣機 [洗衣机](2011)
楽曲について
2011年発表のアルバム「第二人生」収録曲。
珍しく英語タイトルがありません。
楽曲のテーマ
他の家電と違い、華やかでもなければもてはやされることもない洗濯機。他の家電と違い、外で雨風に耐える洗濯機。洗濯機はそれでも日々、黙々と役目をこなす。
そんな縁の下の力持ちである洗濯機。誰も褒めてくれなくても一生懸命に衣服を洗い続けるその姿を思うと、普段忘れていた感謝の念が生まれます。
でもそこで終わらないのが五月天。もっともっと、黙々とあなたのために頑張ってくれる存在を忘れていませんか…?
目立たなくても偉大な存在ということで、洗濯機と母親を掛ける感動的な歌詞。思いがけないオチに脱帽です。
MVについて
全編にわたって五月天が出演する近年では珍しい?MV。
黄色い洗濯機がフィーチャーされる一方で、様々な洗濯機や家族の写真が映し出される演出。シンプルながら歌詞との相乗効果が抜群です。
阿信の洗濯講座?っぽいシーンも微笑ましい。
諾亞方舟 [诺亚方舟/Noah’s Ark/ノアの方舟](2011)
楽曲について
2011年発表のアルバム「第二人生」収録曲。
2012年のワールドツアーのテーマソングです。
楽曲のテーマ
当時囁かれていた2012年世界終了説を受け、世界に終わりが来ても前に進み続ける意志を歌う。
旧約聖書の「創世記」にある「ノアの箱舟物語」にインスパイアされた楽曲で、慣れ親しんだ全ての事物に別れを告げ、無限に広がる旅に赴く壮大な世界観が魅力です。
もし最後に一度だけ電話が出来るとしたら、あなたは誰にかけるでしょうか…。
MVについて
まだ人類の生活の痕跡が残る荒廃した世界で、キャンドルを掲げながら一つの場所を目指して歩む世界の人々。
やがて人々は目的地と思しき場所にたどり着き、キャンドルの灯りは一斉に天に上っていきます。集まった光はまぶしい朝日に変わり、新しい世界はついに夜明けを迎える。
楽曲の壮大な世界観と映像が合わさることで、より神々しい雰囲気に。
最後に流れる「ハッピーバースデー」は、生まれ変わった世界への祝福でしょうか…?
番外編:隱形的紀念 [隐形的纪念/The Hidden Memories](2019)
楽曲について
五月天の阿信と日本の芸術ユニット・明和電機とのコラボレーションにより実現した楽曲。台湾の人気アーティストが集結した台北当代芸術館の企画展「查無此人-小花計畫展」に際し制作されました。企画展のテーマは「回家(帰省)」。
テーマに即し展示会で流されたバージョンは、阿信の歌唱と明和電機の文庫楽器による伴奏というシンプルなもの。本バージョンは展示会の企画アルバムに収録されています。
MVは伴奏を加えて壮大さを増した阿信の単独バージョンです。
歌詞も多少アレンジされているようで、蔡淳佳版と比較すると、恋愛色が多少薄まった印象を受けました。
オリジナルは中孝介のデビューシングル、「それぞれに」(2006)。
シンガポール人歌手・蔡淳佳(Joi Chua)が「隱形的紀念」として2009年にカバーしたことで中華圏に知られました。
参考リンク
台北ナビに展示会に関する記事があったので、興味があればどうぞ。
おわりに
今回は人生について歌った五月天の曲として、「如果我們不曾相遇」「乾杯」「轉眼」「任意門」「洗衣機」「諾亞方舟」の6曲、番外編として「隱形的紀念」を取り上げました。
6曲のうち2曲(任意門と洗衣機)でお母さんが歌詞に出てきました。図らずも、家族の大切さが分かるラインナップとなり、台湾の家族観みたいなものが垣間見れるような気がしました。
そして改めて調べてみると歌詞の深さがより明確に分かりますし、まだまだ名曲が多いことにも気づかされます…。
収まりきらないので、また別の切り口で筆者のお気に入り楽曲を紹介します。
以上です。
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