修論も終わり、そろそろ卒業の季節。
就職活動にも力が入ります。若い皆さんはサマーインターンですか、良いですねー。
そして筆者は…予想はしていましたが、ジュネーヴにいても国際機関就職厳しすぎです。
特に制度の壁が非常に厚く、まずキャリアのスタートが見えません。
JPO?YPP?とっくに年齢オーバー。
インターン?ありがとうございます、無給でも働かせていただけるなんて光栄です(震)
こちら、地方公務員歴13年(そのうち2年は海外)、修士課程修了予定、英仏中アラビア語対応、国際公務員に求められる能力という面では割と計画的にキャリアを作ってきたつもりですが…。びっくりするほど箸にも棒にも掛かりません。確かに国際機関そのものの経験はありませんが、非常に狭き門であることを痛感する毎日です。
国際機関って、さぞ皆さんお仕事がおできになるんでしょうねえ?
インターンも無給で雇っちゃうくらいお高いんでしょうねえ?
経験があっても「現場じゃない」、学歴があっても「分野が違う」、じゃあ何ならいいの。
もしかして、夢を実行に移すのが遅すぎた…?目的意識を持つのが遅すぎた…?
日本で問題意識を持つに至るまで時間をかけてしまうような不器用な人材は、国際協力業界では歓迎されない存在なのか…と感じてしまうこともあります。
とまあちょっと愚痴りましたが、別に諦めているわけじゃないですし、そこで働いている人に対するリスペクトはもちろんありますよ(まあ日本ならあっさり就職できそうではありますが、あの環境には戻りたくないです。正直)。
世界を舞台に活躍できるレベルまで専門性を磨き上げるのは、素直に憧れます。
そんな状況なので、このぶっちゃけ詰んでる状況からまだ打てる手を考えてみました。
自分のために、そして自分と同じ道を進もうとしている人(いるのか?)に向けてまとめます。

日本でもいわゆる理系専門職の場合はこの限りではありません。例外もいっぱいいます。念のため。
外部から国際機関就職を目指すミッドキャリアが直面する壁
国際機関の多くは、いわゆる「若手枠」と「上級職枠」の二極構造を取っています。たとえば、国連関連機関の場合、JPO(Junior Professional Officer)制度やYPP(Young Professionals Programme)は、30歳前後までの若年層を対象にしたものです。一方で、P-4以上のポジションには7年以上の国際経験が要求されることがほとんどです。

国連公式ウェブサイトによると、P-2とP-3がEntry level professionals、P-4とP-5がMid-level professionals、P-6/D-1とP-7/D-2がSenior level professionalsと区分されています(Dは管理職)。雇用形態や内容によって他にも様々なカテゴリーがあります。
となると外部から国際機関に入るためには必然的にこの構造の中間に位置するP-2〜P-3クラスを狙っていくことになりますが、ここで問題発生。
この構造の中間に位置するP-2〜P-3クラスは数が少なく、かつ多くの場合、すでに国際機関内で経験を積んだ人材が対象となります。特に、外部からのP-3採用は稀で、P-2でも「国際経験が必須」と明記されていることが多く、実際は要求水準をはるかに超える人材が多数応募するレッドオーシャンと化しています。
ミッドキャリア人材が外部から国際機関を目指す場合はジョブディスクリプションではP-3程度がちょうどいいということになりますが、上記の事情があるのでこのレベルからのスタートはまず無理。つまり一時的なキャリアダウンは避けられません。

ジュネーヴで言われたのは、「応募し続ければ”本物のP-3公募”もあるかもしれないから諦めないで!」という言葉。つまり「公募しているように見えて実際は内部昇進で決まっている」というパターンが非常に多いということです。
さらに日本で働いていた場合は、日本型の雇用制度が足を引っ張ることも。具体的には、「ジョブローテーション」によって尖った専門性が身につかなくなる、「転職によるキャリア形成」に消極的なためレファレンス(=推薦者)を依頼する相手が見つからない、といったことが起こります。
このように、国内で長年勤めた人ほど、国際キャリアに転じるタイミングを逸しやすいという構造的問題もあります。
ミッドキャリアからでも挑戦できる選択肢
では、こうした制度の壁を前提として、実際にどのような選択肢があり得るのか。ここでは、筆者自身の検討内容も踏まえて、一般的に取られやすい戦略を紹介します。
あくまで正規のポストを狙う
P-3レベルでの外部採用は稀とはいえ、まったく無いわけではありません。特に期間限定プロジェクトや緊急系ポストでは、外部にも門戸が開かれている場合があります。条件が完全一致しなくても、「関連分野での経験あり」として粘り強く応募し続けることで、意外な突破口になることも。
ミッドキャリアという意味ではキャリアダウンにはなりますが、P-2を狙うのが現実的な場合も十分あります。
インターンシップ・コンサルタント・国連ボランティアを足掛かりにする
P-2やP-3への直接的な採用が難しい場合でも、短期契約のプロジェクトポスト(UNESCOのProject Appointmentなど)や無給もしくは低給のインターンシップは、依然として国連組織に「入る」ための数少ない入口です。
また国連のプロジェクトに関連する職歴がある場合は国連ボランティア(UNV)も有力な選択肢。比較的短期間の派遣で専門性やフィールド経験を得ることができます。戦略的に活用すればキャリア形成にもプラス。
国際NGO・シンクタンクを経由する
興味のある課題を扱う非政府セクターを経験して専門性を高めるというルートもあります。
たとえば「国境のない医師団」や「野村総合研究所」など。本部やフィールドなど世界中に働ける場所があるので、選択肢は幅広いです。
ただし国際機関よりもさらに小規模だったり予算がタイトなことが多く、空席を見つけるのは簡単ではありません。またフィールドがメインになるため、そこで話される言語(フランス語などの現地語)が必要になることも多いです。
海外で就職する
国連などの機関だけが「国際キャリア」ではありません。たとえばアジア・欧州の多国籍企業のサステナビリティ部門や現地の政府系機関なども、同じように国際的な政策環境に関与できます。
ただし現地の人材と競争することになるので、専門性の種類によって難易度がかなり変わります。特に欧米では、よほど目立つ実績があったり、言語化能力がとびぬけていたり、というような人でない限りは基本的にかなり難しいと考えて差し支えないでしょう。
博士課程や研究職へのシフト
政策実務の道から少し距離を取り、「知見を蓄える側」にシフトする戦略もあります。ミッドキャリアでPhDに進学する例も増えており、将来的なポストとして国際機関の政策アナリストやアドバイザーを目指すことが可能です。
ただしかなり長期的な視点に立ったキャリア形成が求められますし、そもそもそういうタイプの仕事に適性があるか、という問題も考慮しないといけません。さらに日本のように博士課程=学生という意識のある場所だと職歴にもカウントされない可能性すらあります。
関連分野の日本企業に転職する
途上国支援、環境政策、都市開発など、国際機関と関連するテーマを扱っている日本企業(総合コンサル、建設、商社など)への転職も視野に入ります。国際案件のプロジェクトマネージャーや政策アドバイザーとして働くことで、将来的に国際機関との接点が持てる可能性も。
日本に所在する外資系企業で働く
日本に本拠を置く外資系企業でも、CSR・サステナビリティ部門、グローバル戦略部門などでは国際的な枠組みや政策と関わる機会があります。言語力と異文化理解、制度対応力を活かせる場面が多く、対外的な交渉・発信経験を積みたい人にとっては有力な選択肢です。
日本に所在する国際協力系団体で働く
JICA、JANICなど、国際協力や人道支援に携わる団体は、専門性とともに社会的使命感を重視します。分野によっては国内での勤務からスタートし、その後現地派遣やプロジェクトマネジメントに関与できる可能性も。
これらの選択肢を踏まえて次は具体的な戦略を考えてみます。
ミッドキャリアのための現実的な戦略とは?
前のセクションでは、ミッドキャリア層が国際キャリアを目指す際に直面する制度的な壁と、それでも挑戦可能な選択肢について見てきました。この章では、それらの選択肢をどう組み合わせ、どのような心構えと準備で臨むべきかを戦略として整理していきます。
現実を直視し、優先順位を決める
ミッドキャリアの転職活動においては、若手と違い「時間的・経済的な制約」「家族や生活拠点」「職歴の一貫性」など複雑な要因が絡みます。そのため、まずは何を優先するのかを明確にすることが重要です。
- 「とにかく国際機関に入りたい」のか
- 「国際課題に関われる環境に身を置きたい」のか
- 「高給&安定した職を確保したい」のか
この整理ができていないと、応募書類の内容がぶれてしまったり、面接で説得力のあるストーリーを語ることができなくなります。

特定の国際課題について関心を持ってずっとやってきた人は、やっぱりその辺りがしっかりしています。後発組で国際協力以外のキャリアが長かったりすると、悩みますよね…。
キャリアの「つながり」を意識する
ミッドキャリアにとっては「何をしてきたか」よりも「それをどう活かせるか」が問われます。必ずしも国際機関経験がなくても、「公共政策の設計に携わった」「マルチステークホルダーとの調整経験がある」「制度改正や緊急対応に関与した」といった経験をうまく翻訳することで、ポジションとの親和性を示すことができます。

細かく思い出してみると応募したいポジションとの意外な接点が見つかることもあります。
一方で、単なる職歴のコレクションに見えないように、一貫した関心軸(例:多文化共生、環境ガバナンス、地域開発)を明確に打ち出す必要がある点には注意が必要です。
一時的な「キャリアダウン」を受け入れる覚悟をする
国際機関に限らず、海外でのキャリアチェンジにはポジションや待遇の一時的なダウンが避けられないケースが多くあります。特にエントリーレベルのP-2レベルのポストやインターンシップを敢えて活用するという判断は、将来的なステップアップのための投資と割り切る必要があります。
ただし、闇雲にキャリアダウンを受け入れるのではなく、明確なゴールと回収戦略(例:どんな経験を得て、次にどうつなげるか)を持って動くことが重要です。
将来的に進みたい方向と異なる機関で経験を積んでしまうと、その内容によってはキャリアパスに思わぬ影響を及ぼす可能性もあるので慎重に。
「専門性」と「汎用性」のバランスを取る
専門性が高すぎるとポストが限定され、逆に汎用性が高すぎると応募時のアピールポイントが弱くなるというジレンマがあります。したがって、自身の経験の中から「国際的な応用可能性のある専門性」を言語化することがポイントです。
例えば、以下のようなかたち。
- 自治体行政→分野横断的な政策調整能力、災害対応能力
- 調査・分析→制度改善に資する実務的な知見と提案力
- 海外との連携経験→異文化調整能力、外交的な文脈での交渉経験
日本の場合はジョブディスクリプションも不明瞭ですし成果が定量化されないことも多いですが、可能な限り成果を強調できるように材料を集めておくことでスムーズな書類作成が可能になります。
一方で、対人スキル、調整能力、積極性といった日本の就活でも求められるような素質も非常に重要。意識して言語化できるようにしておくと面接などで役立ちます。
応募・情報収集を「定常化」する
優れたポジションは常に存在するとは限りません。むしろ突発的に出て、すぐに締め切られてしまうことも多いため、
- 定期的な求人チェック(週1ペース)
- 一次資料(公式Web、Job Alertなど)の設定
- 書類のテンプレート化と定期更新
を通じて、「応募を生活の一部」として習慣化することが効果的です。

学生の場合はその教育機関の学生だけに向けた求人があるケースもあります。一般公募よりも競争率が低いので要チェック。
また、LinkedInの活用も不可欠です。職歴やスキルを英語で掲載し、関心のある機関をフォローしておくことで、採用情報やイベントの通知を自動で受け取ることができます。
「Overqualified」への配慮と書類調整
P-2やインターンポストなどに応募する際、経験が豊富すぎると「なぜこのポジションに応募するんだろう」と疑念を持たれる可能性があります。
過去の業績を過度に強調せず、応募ポジションに必要な能力に絞ってアピールする工夫が求められます。
複数の選択肢を組み合わせてリスクヘッジ
短期ポスト、研究職、関連分野の民間企業、国際NGO、JICA関係団体など、同時並行で検討することで実務的・心理的な余裕が生まれます。「国際機関の正規職員」だけにこだわらず、広い視野を持つことが重要です。
またミッドキャリアが応募することの多い正規職員のポストの場合、選考・採用に至るまでのプロセスは(採用カテゴリーにもよりますが)最低でも数ヵ月かかるので、その間の仕事や収入を確保しておくことも必要です。

応募者が多いポストについては選考通過者にだけ連絡をすることも結構多いです(いわゆる「サイレントお祈り」状態)。「ある程度の期間連絡が来なければ不採用を想定して動く」ことを考えておく必要もあります。
ネットワーキングの機会を逃さない
ジョブフェア、学内イベント、SNSを通じた交流は、応募前にポストの実情を知るうえで貴重な手段です。実際に会ったことのある人がいるかどうかは、書類選考や面接の際にも大きな違いを生みます。
学内のキャリアサポートを受けるのも非常に有用です。
まとめ
本記事では、ミッドキャリア層が直面する制度の壁と、それでもなお挑戦可能な選択肢、そして現実的な戦略について紹介してきました。
30代半ばを過ぎてからのキャリアチェンジやっぱり大変なことが多いです。年齢制限、経験不足、採用慣行の壁。分かっていたこととは言え、やっぱりそれらが一挙にやってくると精神的にキツイ場面も結構ありますね。
実際、20代そこそこの学生のほうがインターン、JPO、YPPなどといった国際機関への入り口が広いように感じますし、それ以外にも若者向けのプログラムは多く、何となく「若者羨ましい~」と思ってしまうこともあったり。
もちろん特に学生でジュネーヴに来る若者は大変優秀なのでそういった機会を掴みやすい、という側面もあるかもしれませんが…。
やっぱり制度で区切られる年齢(日本ならJPOの年齢制限である35歳)までに勝負を決めるのが一番良いという事実は変わりませんね。
ただそんなことを考える一方で、アプライするための書類づくりを通じてこれまで自分がやってきたことの重さを感じたり、一見日本国内だけの業務に思われる業務内容が意外な形で国連のミッションに繋がっているような発見もあって、なかなかに興味深いです。
終わりの見えない暗いトンネルをひた走るような感覚がありますが、自らの関心を諦めず、できることを一つひとつ積み重ねていくことで、可能性は見えてくるのだと思います(むしろそれしかない)。戦略はもちろん必要ですが、それだけでどうにかなる世界でもありませんから行動あるのみです。
やっぱり仕事をしたり勉強をしたりすると、もっと根本的な問題解決に取り組んでみたい、と思ってしまうわけですよ…。就職したときは見えていなかった選択肢が見えてくるって、楽しくて苦しいですね。
まあ、逆に言えば国際機関以外の職歴はあるわけで、もしすぐに狙ったポジション決まらなくても、食うに困ることはないでしょう。既にある程度キャリアを積んできたからこその安心感というやつです。
過去の経験を正しく棚卸し、翻訳し、必要なスキルを補う努力を怠らなければ、「遅すぎる挑戦」にはならない、ということを証明したいですね。
以上です。
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