筆者は現在スイス・ジュネーブのIHEID(国際・開発研究大学院)の修士課程で学んでいます。先日ようやく第1セメスターの成績が出ましたので、このあたりで第1セメスターの総合的な振り返りをしたいと思います。
またブログ界隈ではIHEIDだとInter-disciplinary Programmeに分類される開発学(MINT)系の学生が執筆していると思しきブログはちらほら見受けられますが、Disciplinary Programmeに分類される学科については日本語による情報がほぼ出回っていないようですので、この機会にその特徴などについても触れたいと思います。
筆者はDisciplinary Programmeに分類される国際関係・政治学部(International Relations and Political Science、通称IRPS)に所属していますので、こちらで紹介する内容はIRPSに関する情報がベースになります。細かい点については他のDisciplinary Programmeと必ずしも一致しませんのでご注意ください。
IHEIDの概要についてはこちらの記事をどうぞ。
第1セメスターの中間振り返りはこちら。
第1セメスターの振り返り(総括)
まずはセメスター全体の振り返りから。他プログラムの学生からの情報も総合し、IRPSを含むDisciplinary Programmeの特色についても触れます。
リーディング・課題の量が多い
リーディング、課題の量は一般に非常に多い&重いです。プログラムによってはリーディング量に上限があるらしいですが、IRPSについては全くそんなことはありません。軽い本1冊分くらいのリーディングが指定されることも割と頻繁にありました。おそらく平均で1授業あたり100ページくらい。
しかも後述の通り授業はディスカッションが前提のものが多いため、読んでいないと全く授業が理解できませんし発言もできません。そのため、どんなに多くても重くても読まないことには話になりません。
頑張って取り組んでいると少しずつ読むスピードが上がってきたり読み方のコツが分かってきて拾い読みでも授業で用が足せるようになってきますが、それまではとにかくハードです。
また課題の量も(特にMINTと比較すると)多いようで、MINTが授業中に完結する試験形式が中心であるのに対し、IRPSは持ち帰ってじっくり解く形式が中心という違いがありそうです。
例えば統計学の定期試験では、MINT設置の授業では授業時間を使って選択式の試験が行われたそうですが、IRPSでは1週間程度の時間を使って与えられたデータを基に自分で立てた仮説を検証することが求められました。
プログラムによって同じトピックでもかなり内容が違うことが分かりますね。
1セメスターを通じてこのような授業に取り組んだことで、英文を読むスピードや論理構成の方法といった技能が向上したように感じます。
授業は少人数・ディスカッションベース
Disciplinary Programmは1学年あたり30人~40人程度。そのため、Disciplinary Programmeに設置されている科目は定員が少なく、授業中の発言が求められるディスカッションベースのものが多くなりがち。筆者はIRPS設置の授業ばかり取っていたので、大教室での講義は未経験です。
MINTは大教室での授業が一定数あるようで、授業によっては出席点の割合が高い(10%を超える)と聞いたことがあります。IRPSは多くて10%程度です…
質問や発言は大教室の授業と比較するとしやすい環境であると言えますが、かなり濃い内容のディスカッションについていくのは簡単ではありません。
授業で発言する際に緊張することが減りましたし、リーディングの内容にも触れられるようになってきて、鍛えられている実感があります。
評価が厳しめ?
これは具体的に比較したわけではなく周囲の話からの情報ではありますが、Disciplinary Programmeに属するプログラムはInter-disciplinary Programmeと比較すると高い成績が出にくいという話があるようです。その中でもIRPSは成績が渋いことで有名だとか。
しかもそのせいで交換留学の申請で不利になるということがあるようです。
筆者の見解としては、(他のプログラムとの相対的なところは分からないものの、)実際要求水準の高さは感じますし、それが評価の厳しさにつながっているであろうことは想像に難くありません。評定には常に改善を求めるアドバイスが付いている感じです。
実際に他のプログラムの学生との比較でデメリットを被っているのであれば問題ですが、そうでない限りは評価の厳しさそれ自体は悪いものではないと考えています。
IRPSの授業の一部をご紹介
次に筆者が実際にIRPS学生として受講した授業をご紹介します。
Studying and Working in International Relations and Political Science
必須授業その1。単位数は6CTS。
学科の授業が正式にスタートする前の週に行われる導入的な授業で、IRPSで扱う分野について1日目はPolitics、2日目はInternational Relations…といったように5日間にかけて学びます。
各日のテーマについてリーディングが課されており、リーディングの内容を基にディスカッションを行うことになります。
この授業では3種類の課題が課されました。
一つ目は、各自が選択した各リーディングから重要と思う部分を抜き出したのち(Quote)、引用内容に関して文中で提示されている議論(Internal argument)とその背景(External Context)を検討しつつ、その引用部分が重要と考える理由や各自の考察(Reflection)について論述するQIER Questions。
二つ目は、各自が興味を持っているトピックについて、複数のリーディングにおけるそれぞれの議論や見方(perspectives)を対話させつつ論述するPlay with Perspectives。
三つ目は、修士論文に向けた各自の道のりをビジュアルで示すRetro-Planning Poster。
最初の授業ということでリーディング量は控えめ…かと思っていましたが、そんなことはなく。英語のアカデミック文書を読むことに慣れていない筆者の場合、毎日深夜2時頃まで資料を読む日々を過ごすことになりました。
8月には既にリーディングの一覧やリーディングそのものが示されていたので、もう少し早く読み始めておけばよかったと少し後悔。
それぞれの課題か(自分にとっては)かなり重く、他の科目のリーディングとこの科目の提出期限が被っていたこともあって、それぞれの提出期限の直前は相当な忙しさでした。
Field Seminar on International Relations
必須授業その2。週に2コマ(火曜日と水曜日)ある授業で、割り当てられる単位も他の科目の2倍の12ECTSです。
火曜日は毎週International Relationsに関する1つのトピックについてリーディングの内容を基にディスカッションを行う授業、水曜日はゲストスピーカーによる講演やビデオ鑑賞&ディスカッション、国連図書館の訪問といったまさにフィールドワーク!といった授業が展開されます。
また後半には、授業で扱う各トピックから各自好きなものを選び、グループでプレゼンテーションを行うグループプロジェクトもありました。ジュネーブという土地柄が関係してか国際機関をテーマに選ぶ学生が多かったです。
グループプロジェクト以外の課題としては、3週~4週に一度提出が求められるResponse PaperやFinal Paperが課されました。
Response Paperは特定のトピックについて毎週課される複数のリーディングを読み、それぞれのリーディングについて、論点の比較や現実の問題に即した考察などを規定の文字数に収まるかたちで論述するもの。
Final Paperは授業で扱ったトピックについてResponse Paperと同様に論点の比較や現実の問題に即した考察などを規定の文字数に収まるかたちで論述するものですが、Finalということで規定の文字数は多め&さらに踏み込んだ議論が求められる点が異なります。
それぞれの課題について示されている評価方法がやや抽象的だったため、学生は割とみんな混乱していたような印象があります。
規定の文字数が与えられたリーディング量に比して非常に少ないので、筆者はかなり悩みながら作成していました。これは力作!と思って提出したら低評価…ということはしょっちゅう。
それでもそれぞれテイストやテーマが全く異なる長い文章について、それぞれの要点を自分なりの解釈でつないでいく過程は結構面白く、一つのエッセイの中に全てのリーディングの要旨を詰め込めたときの達成感は格別でした。
とりあえず提出すればそこそこの評定がつくような日本の大学とは違うということを思い知らされる科目でした。
Statistics for International Relations Research Ⅰ
IRPSの選択授業その1。
国際関係分野でリサーチを行う際に必要な統計学の知識とこの分野で広く用いられているプログラミング言語であるRの運用について学ぶ内容で、統計理論を学ぶ講義形式の授業が週に1回、Rの実際の使用方法について学ぶLabと呼ばれる授業が週1回、計週2回授業がある形式です。単位は6ECTS。将来的にPhDに進みたい学生や国際機関のような大量のデータを扱う仕事に就きたい学生にとっては必須の授業!
シラバスを見る限りでは特段前提知識は要求されない授業ですが、かなり進行が早く、かつ英語で数学に関する知識を再度頭に叩き込むことになるので、前提知識ゼロで挑むのはかなりハード。最後に数学を学習してからかなりの時間が経っている自分にとっては毎回頭にはてなが浮かぶような状態でした。
ただ学習する知識は統計学から計量経済学のような内容に至るまで幅広く、実際の事例に即した具体的な統計を扱うので非常に興味深いです。Labの授業も実際にプログラミング言語に触れるので毎回新しい発見があり、講義で学んだ複雑な計算が自分が組んだプログラムで一発でできるようになるとかなり楽しいです。
そんな未経験者にとっては新しい発見にあふれた授業ではありますが、一方で辛いのは毎週の課題と定期試験。毎週出題される課題Problem Setは他の学生と協力して臨むことが許されているので毎回どうにかこうにか乗り切っていましたが、他の学生の力を借りられない中間試験Mid-termや最終試験Finalは辛いものがありました。課題と試験は基本的に持ち帰り形式なので取り組むための時間はたっぷり掛けられるものの、Rのエラー地獄に陥るといくら時間があっても足りません…。
初学者が多いためかフォローは手厚い印象。特に中間試験については課題の解説に充てられたセッションが設けられるほどですが、回答の内容に「これ授業でやりましたっけ?」と思う用語がちょくちょく出てきて困惑することもありました。
The Politics of Expertise in Global Governance
IRPSの選択授業その2。
グローバルガバナンスの現場(特に国際機関)において用いられる知識(expertise)について、様々な側面から考察していく授業。単位数は6ECTSです。
政策形成において用いられる科学的知識の性質や様々な主体の役割など、業務上で日常的に触れるであろう様々な要素をそれぞれ検討していくのはかなり興味深かったです。
具体的な事例に即したリーディングやディスカッションが多く、職業経験があると自分の経験に基づいて考えられるのでさらに面白いかもしれません。
ただしリーディングのボリュームはかなり重め。筆者は他の学生と分担してリーディングをこなしていました。
日常的な課題はありません(リーディングのみ)ですが、その場で回答を作成する形式の中間試験持ち帰り形式の最終試験がありました。今年度の中間試験は教室で映像を見てリーディングの知識から論述する形式、最終試験は持ち帰りのエッセイでした。いずれも評価基準があいまいなため学生間の評判はあまり芳しくない部分があったものの、個人的にはこれまでと異なる側面からこれまでの業務を振り返る良い機会になって良かったと思っています。
まとめ
初めての留学ということで、当初は(そして今も)授業の受け方や復習の仕方、リーディングのやり方など試行錯誤の日々でした。第2セメスターは授業にも少し慣れてきたということで違ったアプローチが試せるかもしれません。
交換留学も無事GPA要件を満たすことが出来たため申請を行い、現在結果待ち。行けるようになったらまた記事にします。
この記事がIHEIDを目指している方、特にDisciplinary Programmeに興味のある方の参考になれば幸いです。
以上です。
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