中毒性満点の中華チャンバラファンタジー「武侠」の魅力について語りたい【おすすめ作品も紹介】

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武侠(ぶきょう)は、剣や拳を駆使して悪を討ち正義を守る英雄たちが活躍する、中国の物語ジャンルです。

日本での知名度はそこまで高くありませんが、実は中国をはじめとする中華圏全体で根強い人気のあるジャンルであり、スリル満点の戦闘シーンや、義理と友情、愛情を重んじるテーマに心惹かれるファンが多くいます。

シンガポールでももちろん大人気。書店で特集が組まれたことも!

神鵰侠侶をフィーチャーしたシンガポールの紀伊國屋書店での展示。

エンタメとしての面白さはもちろんのこと、武侠小説は中国の歴史や文化、さらには思想に触れる格好の手段でもあり、中国語学習者や中華圏でビジネスをしたい方にもお勧めです。

この記事では、武侠にハマって20数年の筆者が武侠小説の魅力や特色、さらにおすすめの作品やスポットまで色々とご紹介します。ぜひ深い深い武侠沼にハマってみてください!

目次

武侠というジャンルについて

武侠とは

武侠はものすごく簡単に言えば剣や武術を扱ったヒーローものと考えてもらうとわかりやすいでしょう。

基本的に舞台設定は時代劇のため、西洋の物語との対比で「中国版の剣と魔法の世界」なんて表現をされることもあります。

「侠(きょう)」とは義を重んじる人物のことを指し、義侠心に満ちた主人公が、不正に立ち向かい、仲間を助け、時には己の信念のためにすべてを捧げる姿が描かれます。

中国文学の中でこのジャンルは特に人気があり、多くの作家が武侠小説を手がけてきました。

武侠小説の舞台となるのは、架空の中国の歴史的背景を持つ世界です。この世界では、登場人物たちの多くは武術の達人であり、しばしば「内功(ないこう)」や「気」を使って超人的な戦闘を繰り広げます。

また「降龍十八掌」や「九陰白骨爪」など、挙げればキリのない個性豊かな武功(いわゆる必殺技)も物語を盛り上げます。映像化作品ではより視覚的に分かりやすくなる(龍のエフェクトが出てきたりビームが出たりする)ので臨場感が段違いになります!

作品によっては「幻の技の習得法が書かれた書物」であったり「伝説の武器」のような物が存在し、それらをめぐる争いが物語の主軸になることもあります。

また、道徳観や家族、国家への忠誠心、そして愛や友情といったテーマも物語の中心に位置しており、読者を感動させます。

代表的な作家

武侠小説界で最も有名な作家といえば、金庸(きんよう)でしょう。

彼の作品は、壮大なスケールで繰り広げられる武術の世界を描きつつ、人間の心の葛藤や成長を丁寧に描いている点で特筆に値します。金庸の作品は、中国のみならず世界中で読まれ、今なおその影響は色あせることがありません。

金庸は「指輪物語」の作者であるトールキンと並び評されることもあります!人気っぷりが伺えますね。

また金庸の作品は新聞連載として始まったという経緯もあり、執筆当時の政治背景を踏まえているという側面もあります。そういった背景を知っていると、また違った楽しみ方ができるはず。

もう一人の重要な作家としては、古龍(こりゅう)が挙げられます。

彼は独自のスタイルで、詩的で抽象的な描写を多用し、ミステリアスな雰囲気を漂わせる物語を得意としています。彼の作品では、戦闘シーンよりもキャラクターの内面的な葛藤や、人間関係の複雑さに焦点が当てられ、深い心理描写が特徴です。

他にも有名な作家はいますが、一旦ここで止めておきます。ぜひお気に入りの作家を見つけてみてください!

シンガポールで発行されている金庸の「射鵰英雄伝」の表紙。

武侠の特色

独特な用語が多い

武侠の世界には、日常会話では聞き慣れない独特な用語が多く出てきます。

例えば、「内功(ないこう)」は武術家が体内で養う力のことで、これは外界に向かって「気」として放たれ、強力な攻撃手段となります(対比される概念として「外功(がいこう)」もあり、こちらは主にフィジカル的な強さを指します)。また、「軽功(けいこう)」は地面を軽やかに飛び回る技術で、壁や水の上を駆けるシーンはまさにファンタジー。

さらに登場人物の多くは思想やルールの異なる武術家のグループ「門派(もんぱ)」に属しています。それらが作品や時代背景によって「正派」や「邪派(対象が宗教団体だと魔教と呼ばれたりも)」に分かれて争ったり、門派内や門派の垣根を超えた子弟間の愛憎劇が繰り広げられたり、主人公が複数の団体に板挟みになって苦悩したり…と舞台装置として良い塩梅に機能します。

僧侶だけの門派や女性だけの門派などもあり、規模もそれぞれ全く異なります。とにかく個性豊か。

こうした用語は最初は馴染みがないかもしれませんが、物語を読み進めるうちに自然と理解できるようになります。

登場人物もかかり多いですが特に暗記する必要もありませんし、色々な概念を深く理解しなくても本筋の理解に支障が出ないようにあくまでエンタメとして設計されているので初心者でも大丈夫。

慣れてくるとこうした特殊な世界観がクセになってきます。これぞ武侠小説を楽しむ醍醐味。

お決まりの展開・お約束

武侠には日本のチャンバラ劇のようにファンが期待するお決まりの展開が多く存在します。

例えば、主人公が過酷な試練や修行を乗り越えて最強の武術を習得するパターンや、隠された出自が物語の鍵となる展開は多くの作品で見られます。

崖下に突き落とされた主人公が強くなって戻ってくるのもお約束。

また、復讐劇も非常に重要なテーマです。家族や師匠を殺された主人公が復讐を誓い、長い旅路の末に敵を討つストーリーは、古典的でありながらも何度読んでも心を打ちます。話をややこしくする説明不足のキャラクターが割といるのもお約束。

親世代の因縁が子世代に引き継がれるストーリーも非常に多いです。

さらに、武侠小説にはロマンティックな要素も欠かせません。主人公が仲間や恋人との関係を深めながら成長し、物語のクライマックスで全ての真相が明かされる瞬間は読者を感動させます。

王道のヒーロー・ヒロインからヤンデレまで、人物描写のバリエーションは無限大です。敵側のストーリーにも魅力的なものが多く、胸打たれること必至。

日本の漫画にも大きく影響している

こちらもあまり知られていませんが、武侠は日本の漫画やアニメにも多大な影響を与えています。

分かりやすいのがガンダムシリーズに登場する「東方不敗マスター・アジア」と彼の技「石破天驚拳」。これらは金庸作品の用語そのままです(東方不敗と石破天はそれぞれ「秘曲 笑傲江湖」と「侠客行」のキャラクター)。

さらに2008年には「射鵰英雄伝」に登場する「梅超風(ばいちょうふう)」をモデルにしたキャラクターが格闘ゲームストリートファイターオンラインマウスジェネレーションに登場し、その強さと恐ろしさを見事に再現しています。

同ゲームには他にも何名か金庸作品から参戦(?)しています。

このように、日本のクリエイターたちは武侠の壮大な世界観や道徳観に共鳴し、独自のストーリーやキャラクターを創り上げてきました。

武侠が単なる中国の伝統的なジャンルに留まらず、世界中のエンターテイメントに影響を与える文化的な財産となっていることが分かりますね。

武侠をたしなむメリット

中華圏にファン多し。ネタ作りにもピッタリ

武侠小説は中華圏全体で広く読まれているため、中国の友人や同僚と話題を共有する際にも役立ちます。

また中国では武侠作品の映画やドラマが頻繁に放映され、武侠ファンのコミュニティも活発です。そのため、武侠作品について語れると、現地の人々とより深いコミュニケーションが取れるでしょう。

武侠作品のファンは中高年以上の男性に特に多いです。最近の若者にはちょっと刺さらないみたい。

中国人の考え方が学べる

武侠小説の展開には、中国人の価値観や倫理観が色濃く反映されています。

「義」を重んじる主人公たちの行動は、友人や家族、さらには国家への忠誠を示すものであり、これらの価値観は中国文化に深く根付いています。

国家や民族への忠義と個人的な感情の板挟みになるキャラクターが非常に多く、それが単なるエンタメに留まらない深みを生み出しています。

また、道教や仏教などの哲学的なテーマも頻繁に扱われており、これらを通じて中国人の考え方や人生観を学ぶことができます。

中国の歴史が学べる

武侠小説自体は基本的にファンタジーですが、中国の歴史的背景を舞台にしたものも多く存在します。

例えば南宋時代の中国が舞台となる「射鵰英雄伝」では、チンギス・ハーンを始めとする実際の歴史上の人物が多く登場するほか、靖康の変といった実際の出来事が物語のカギを握る要素として関わってきます。

武侠を通じて中国の歴史や文化に自然に触れることができるのは、このジャンルの大きな魅力の一つです。

中国語の勉強になる

武侠小説を読むことは、中国語の学習にも非常に効果的です。

物語に登場する武術用語や古典的な言い回しは、日常会話ではあまり使われないものの、中国の歴史や伝統を理解するための重要な知識となります。

映像化作品を視聴するだけでも中国語に触れることができますが、原作を中国語で読むことができればより深い理解が得られるだけでなく言語スキルの向上も目指すことができます。

おすすめ作品(本&映像化作品)

ここからは筆者の個人的おすすめ作品を本と映像化作品の両方からご紹介します。

おすすめ本

初めて武侠小説を読む方におすすめしたいのが、金庸の名作「射鵰英雄伝」

筆者が武侠沼に引きずり込まれるきっかけになった作品です。

この物語の舞台は南宋と金が対立する13世紀初頭の中国。漢民族の血を引きつつも色々あってモンゴルの大草原で育った、義侠心に厚くちょっとおバカな主人公郭靖(かく・せい)が、義理と忠誠を胸に敵と戦い成長していく姿が描かれています。

多彩な人間模様が描かれるのも本作品の特徴で、賢くて毒っ気のあるヒロイン黄蓉(こう・よう)とのジェットコースターのような恋愛模様や、郭靖と対になるライバルキャラでありこちらも色々あって金の皇子として育てられる楊康(よう・こう)との確執の行方も必見。

また若者キャラだけでなく「東邪」「西毒」「北丐」「南帝」といったあだ名を持つ達人を始めとする魅力的な脇役も大量におり、語るときりがありません!皆一癖もふた癖もある性格でスピンオフ作品が作られるくらいバックストーリーも濃密です。

カッコイイおじ(い)さんが多いのもこの小説の特徴です!

軽い筆致で一度読みだしたら止まらない面白さ。

射鵰英雄伝にハマったら、「射鵰三部作」の二作目「神鵰侠侶(神鵰剣俠とも)」と三作目「倚天屠龍記」も是非読んでみてください。

書籍版はプレミア価格状態になっていますが、大抵の図書館に置いてあるはずなので是非そちらで!

もう一つのおすすめは、こちらも金庸の「鹿鼎記」

この作品の魅力は従来の武侠小説とは一線を画すストーリー設定にあります。

まず主人公韋小宝(い・しょうほう)の設定が異色。武術はからっきしですが頭の回転が速く、機知と交渉術で数々の困難を乗り越えていくタイプです!郭靖のような王道の主人公とは真逆ですね。

しかも好色家でもあり最終的に7人の妻を娶ります。そう聞くと何だかラノベのハーレムものみたいですが、義侠心はしっかりと持っており、展開が進むごとに物語も深みを増していきます。

これまでの作品とあまりに作風が違うので、誰かが代筆しているのでは?という噂が出たこともあったらしいです。

舞台は政治的陰謀や愛憎が渦巻く康熙帝時代の清朝。紫禁城に潜り込みひょんなことから康熙帝と親友になった韋小宝が、朝廷や反清復明を掲げる反体制派レジスタンスなど様々な組織で板挟みになりながらも、持ち前の機転を利かせて危機を乗り越え清朝で出世していく様が描かれます。康熙帝とのブロマンスも必見。

展開として政治的な駆け引きも多いため登場人物が若干複雑ではありますが、バトル要素もちゃんとあるので王道の武侠ものが好きな人もしっかり楽しめます。

映像化作品も素敵ですが人間関係をしっかり把握すると物語の深さが分かるので最初に活字で読むのがおすすめです。

なお本作品には別作品とつながりのあるキャラも登場します!そのため金庸作品をいくつか読んだ後に読むと更に楽しめます。

こちらも書籍版は高額ですが、大抵の図書館に置いてあるのでそちらで読めるはず!

おすすめ映像化作品

武侠の魅力を映像で楽しむなら、金庸の「神鵰侠侶」「秘曲 笑傲江湖」は外せません。

「神鵰侠侶」は「射鵰英雄伝」の続編であり、「射鵰英雄伝」の楊康の忘れ形見である楊過(よう・か)を主人公とし、彼の師匠である小龍女(しょうりゅうじょ)の禁断の愛(当時子弟間の恋愛はタブーとされていた)が、彼らに降りかかる数々の試練と共に描かれています。

前作と直接繋がっているため、郭靖や黄蓉を始めとするお馴染みのキャラクターもたくさん登場します!

この作品を特に映像で楽しんでもらいたい理由は、第一に小龍女の造型が非常に美しさ。浮世離れした美少女という設定が映像になると非常に分かりやすくなります。

幾度となく映像化されているので、どの小龍女が好み?という議論が度々起こるくらい。

映像化作品を見ることで美しい風景と壮大なアクションシーンも視覚的に楽しめるので、武侠の世界を存分に堪能できます。筆者のお気に入りはリウ・イーフェイ(劉亦菲)版の小龍女。ひたすら綺麗です。

セルDVDもありますし、中国語のみバージョンであればYouTubeでも色々な版が公開されています!雰囲気を味わうならそれだけでも。

打って変わって「秘曲 笑傲江湖」は、音楽も非常に重要な役割を果たす作品。

剣術の達人令狐冲(れいこ・ちゅう)が、自由と束縛、友情と裏切りといったテーマに葛藤しながら成長する物語ですが、「正派」と「邪教」という立場の違いがありつつも友情を貫き簫と琴の合奏曲を作った二人の男の物語がベースにあり、世間で言うところの「正派」と「邪教」を超えた「正しさ」が問われます。

映像化作品では作品ごとに異なる解釈で合奏曲を楽しむことができます。

元々「正派」に属していた令狐冲と「邪教」の教主の娘であるヒロイン任盈盈(じん・えいえい)との恋愛模様であったり、「正派」である華山派を束ねる立場にありながらも、己の野心から策略を巡らす令狐冲の師匠岳不群(がく・ふぐん)の生き方であったりと、その「正しさ」は色々なところで異なる形で描かれ、重厚な物語を形作っていきます。

複雑な人間関係や深い哲学的テーマが織り交ぜられたこの作品は武侠ドラマの中でも特に評価が高く、何度も映像化されており、監督ごとの解釈の違いが面白いポイントでもあります。

邪派・日月神教の教主であり刺繍糸を自在に操る敵役東方不敗(とうほうふはい)も人気キャラ。女装して配下である楊蓮亭(男性)に甲斐甲斐しく尽くしているというかなりクセの強いキャラクターです。

カラフルな刺繍糸を使った東方不敗の華やかな攻撃は非常に映像化作品映えします!

また映像化作品によっては東方不敗が女性という設定で令狐冲と恋仲になるパターンも…!この原作改変は当時賛否両論の嵐を巻き起こしました。

金庸関連のスポット

中国には金庸ファンなら外せないスポットが色々あるので、いくつかご紹介します!

香港

金庸の影響を感じられるスポットとして香港は外せません!金庸が香港で活動していたことから彼の足跡をたどる場所が多くあります。

特におすすめなのが香港文化博物館にある金庸館(Jin Yong Gallery)

金庸直筆の原稿の展示や歴代の主題歌が視聴できるコーナーなどがあり、売店ではオリジナルグッズも購入可能。ファンなら絶対に訪問したい場所です。入場無料なのも嬉しい!

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