スイスに長期滞在するうえで避けられないのが、医療保険の加入。
留学生や駐在員をはじめとする長期滞在者は、居住する州の定める基準を満たす保険への加入が義務付けられています。
この件は留学生(特にEU圏外から)にとって非常に重要な事柄のため、大学院からもウェビナーで保険に関するセッションがありました(そのときはScoreStudiesの担当者が登壇)。
しかしながら保険会社は一つではありませんし、会社やプランにより条件や保険料も異なるため、自分で調べることも非常に大事。そのためウェブサイトの参照や問い合わせを通じて自分でも情報収集を行いました。
この記事はその成果をまとめたものです。
2023年8月時点で確認できた情報をまとめました。同じように保険会社選びに悩んでいる方の一助になれれば嬉しいです。
本記事はジュネーブに居住する場合の内容ですので、他州の場合は利用可能な保険会社やプランが異なる可能性がある点にご留意ください。
最適解は個人によって異なりますし、制度変更の可能性もあるので、詳細な内容の確認や保険の最終チョイスは必ずご自身にて行っていただくようお願いします。
スイス長期滞在者は医療保険への加入が必須
外国人留学生を含む長期滞在者は医療保険への加入が必須
スイスに長期(90日以上)滞在する場合、医療保険に加入することが義務付けられています。
European Health Insurance Cardを保有していれば代替することも可能ですが、EU外からの留学生はこの選択肢はとれません。そのため日本から留学する場合は、必ず医療保険への加入を検討しなければなりません。
その場合、後述のように外国の保険による代替が厳しいことから多くの学生がスイスの医療保険に加入するのが現実。
もしスイスの会社の医療保険に加入する場合、後述のDeductible制度を知っておく必要があります。また保険によって対象となる州に違いがあるため注意が必要です。
独特なDeductible(控除額)制度
スイスの医療保険にはDeductibleという金額が設定されています。
Deductibleはいわゆる自己負担上限額のことで、自己負担金額の上限を低くすれば保険料が高くなり、逆に高くすれば保険料が安くなります。計算は(プランによるものの)基本的に年単位での積算になるようです。
さて具体的な計算方法ですが、例えばDeductibleを300CHFに設定した場合、年間で300CHFを超えた分について保険料が支払われます。一方で1,500CHFにした場合、自己負担額が1,500CHFに達するまで保険料は支払われません。
どの程度のDeductibleを選ぶかは、基本的に被保険者の健康状態によって判断することになります。
頻繁に病院に行く人であれば保険料が多少高くついてもDeductibleを低く設定するほうが良いでしょうし、そうでなければDeductibleを高く設定することで保険料の節約につながります。
外国の保険による代替は厳しい
さて上でスイスの保険会社の制度をご紹介しましたが、日本の保険会社も留学保険を販売しているため、そのような留学保険への加入を検討している方も多いのではないでしょうか。
いざというときに日本語でサービスが受けられるのは大変心強いですよね。
EU外の外国の医療保険でも、保険の補償する内容によっては、スイスの医療保険に代替が可能な場合もあるようですが、大学院に問い合わせたところ、認定が大変厳しいのでスイスの保険会社を検討したほうがよいとの回答でした。
結論から言うと、日本の留学保険のメリットを享受したい場合は、日本の留学保険とスイスの保険会社の医療保険の両方に加入しなければならなくなる可能性が高いです。
保険申請のタイムリミットは3ヵ月
保険の代替に関する申請は到着後3ヵ月以内に行わなければなりません。期限を超過した場合はスイス政府が指定する高額な医療保険に強制加入させられることになります。
免除申請前OCPMから受け取った保険会社の案内(スイス到着後一定期間免除申請を行わないと、OCPMから強制保険加入の警告と提携保険会社の案内が届きます)によると、その他に加入が遅れたことによるペナルティーも科されるようです。
Liabilities(損害賠償保険)は義務ではないが推奨
スイスで長期滞在者が加入必須なのは医療保険のみであり、損害賠償保険は必須ではありません。そのため保険会社によって取り扱いの有無が異なります。
参考として、大学院側からは加入を推奨されています。
選択肢1:ScoreStudies
まずはScoreStudies。こちらは大学院から信用のできる保険として紹介されています。
大手保険会社Allianzが提供する留学生用医療保険で、ジュネーブに留学する学生が利用できる保険のうち、唯一損害賠償保険がセット可能です。
諸条件
公式ウェブサイト掲載の諸条件は以下のとおりです。
条件項目 | 内容 |
---|---|
対応するスイスの州 | 全て |
サポート体制 | 緊急時は24時間専門家に連絡可能 Allianz MyHealthアプリにて諸手続が可能 |
対応言語 | 英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、ポルトガル語、スペイン語 |
支払対応言語 | 130以上の通貨に対応 |
販売プラン | EssentialとPremiumの2種類 |
プランによる違い | 対応地域 Essentialはスイス国内のみ、Premiumは全世界 ※Essentialでも条件により国外でも適用可 補償内容 1. 眼鏡・コンタクトレンズ(Premiumのみ対象) 2. 歯科治療(Premiumのみ対象) 保険料 Essential<Premium |
年間控除額 | CHF500、CHF1,000、CHF1,500の3種類 |
損害賠償保険 | 設定あり(scorestudies Protection) |
保険料(月額)
公式ウェブサイト掲載の保険料は以下のとおりです。
年間控除額 | 年齢 | 保険料 |
---|---|---|
CHF 1,500 | 29歳まで | CHF 64 |
CHF 1,500 | 30歳以上 | CHF 111 |
CHF 1,000 | 29歳まで | CHF 80 |
CHF 1,000 | 30歳以上 | CHF 146 |
CHF 500 | 29歳まで | CHF 151 |
CHF 500 | 30歳以上 | CHF 255 |
メリットとデメリット
- 補償内容が手厚い
- サポート体制が手厚い・保険料請求の処理が早い
- 賠償保険が契約可能
- 大学院が勧める保険会社(IHEIDの場合)
- 保険料が高い(30歳以上はさらに高い)
公式ウェブサイト
公式ウェブサイトやパンフレットもかなりしっかりしています。
選択肢2:Swisscare
続いてSwisscare。恐らくジュネーブを含むスイスに留学する学生に最も人気のある医療保険です。
補償内容は最小限ですが、その分保険料もリーズナブル。
諸条件
公式ウェブサイト掲載の諸条件は以下のとおりです。
条件項目 | 内容 |
---|---|
対応するスイスの州 | 全て |
サポート体制 | 24時間ホットライン My Swisscareアプリにより支払いや医師検索が可能 |
対応言語 | 英語 |
支払対応言語 | 情報なし。英語のみ? |
販売プラン | STANDARD、COMFORT、PREMIUMの3種類 |
プランによる違い | 補償内容 1. 心理学者対応(PREMIUMのみ対象) 2. 妊娠・出産関連の補償内容が異なる 3. 歯科治療の補償内容が異なる 4. 移送・救護の補償内容が異なる 5. 家族による病院訪問補償内容が異なる(COMFORTとPREMIUMのみ対象) 6. 帰国費用の補償内容が異なる 7. 事故死亡・障害の補償内容が異なる 8. 眼鏡・コンタクトレンズ:PREMIUMのみ対象 9. 旅行補償の内容が異なる 10. 試験補償の内容が異なる 保険料 STANDARD<COMFORT<PREMIUM |
年間控除額 | CHF300、CHF500、CHF1,000、CHF1,500の4種類 |
損害賠償保険 | 設定なし |
保険料(月額)
公式ウェブサイト掲載の保険料は以下のとおりです。
年間控除額 | 年齢 | 保険料 |
---|---|---|
CHF 1,500 | 31歳まで | CHF 61 |
CHF 1,500 | 32歳以上 | CHF 81 |
CHF 1,000 | 31歳まで | CHF 66 |
CHF 1,000 | 32歳以上 | CHF 88 |
CHF 500 | 31歳まで | CHF 85 |
CHF 500 | 32歳以上 | CHF 105 |
CHF 300 | 31歳まで | CHF 110 |
CHF 300 | 32歳以上 | CHF 131 |
メリットとデメリット
- 保険料が安い
- 補償内容は最小限
- 32歳以上は保険料が高くなる
公式ウェブサイト
公式ウェブサイトは必要最小限の情報が載っているという感じ。すっきりしています。
選択肢3:Academic Care (Groupe Mutuel)
最後にAcademic Care。スイスの保険会社Groupe Mutuelが運営する学生用医療保険。
諸条件
公式ウェブサイト掲載の諸条件は以下のとおりです。
条件項目 | 内容 |
---|---|
対応するスイスの州 | 全て |
サポート体制 | 全世界対応のサポート Groupe Mutuel Assistanceによる24時間365日のサポート 専用アドバイザーによるサポート LeClubによる優待サービス |
対応言語 | 情報なし(英語とフランス語?) |
支払対応言語 | 情報なし |
販売プラン | 要問い合わせ |
プランによる違い | 要問い合わせ |
年間控除額 | 要問い合わせ(参考情報:offerでは100CHFと500CHFの2種類) |
損害賠償保険 | 設定なし |
保険料(月額)
公式ウェブサイトを確認する限り、他の保険会社が提供しているような料金テーブルは見当たりませんでした。
実際に問い合わせをしてみました
公式ウェブサイトから受けられるofferについて問い合わせをしてみました。
公式ウェブサイトのフォームから留学に関する最低限の情報(大学院名・学科名・滞在期間・年齢等の個人情報)を添えてメッセージを送信。1週間ほどで先方からコンタクトがありましたが、記載した情報についても確認されるなどちょっと対応が雑かも?という印象。
最終的に提示された金額が他の保険会社よりもかなり高かった(Deductionが低く設定されているのが原因?)ので、今回は選ばないかもしれません。
メリットとデメリット
他社と比較可能な情報があまりない(個人情報ベースのofferのみ)ので何とも言えません…。
公式ウェブサイト
公式ウェブサイトにはあまり情報がなく、問い合わせ内容に基づき個別に対応する方針のようです。
後日談1:免除申請の体験談(ScoreStudiesの場合)
ここからは実際にジュネーブ州の定める保険制度からの免除を申請した体験談です。筆者はScoreStudiesを選択したので、本体験談は同保険の適用によるものであり、他の保険には必ずしも当てはまらない点にご留意ください。
筆者の選択
更新前の記事にも書いた通り、安定性とサポート体制から筆者はScoreStudiesを選びました。
加入を証明する書類はインターネット経由ですぐに送られてきたので、SIMカード購入の際の証明としても利用することができて便利でした。
免除申請
免除申請についても加入後すぐに案内がありました。ScoreStudiesの場合、フォームに必要な情報を記入して滞在許可証のコピーなどとともにScoreStudiesにEメールで送付する方式です。(つまり滞在許可証を受領するまでは免除申請を進めることができません。)
筆者が滞在許可証を受け取ってから必要な書類をメールすると、翌週にはOCPMから免除申請が完了した旨の文書が届きました。
医療保険を管轄する当局は日々多くの申請を処理していることから、免除申請が受理された(免除の旨の文書を受領した)後であっても、免除申請を催促する文書が発出されることがあります。
基本的には単なる行き違いのようですが、念のため保険会社に確認したほうが安心かも。
滞在許可証の入手まで約2ヵ月かかったことで免除申請のタイムリミットまで1ヵ月を切ってしまい不安がありましたが、かなり迅速に手続きが進んで安心でした。OCPMとの個別のやりとりが不要なのも大きかったです。
滞在許可についてはこちらの記事も合わせてどうぞ。
後日談2:医療費請求の体験談(ScoreStudiesの場合)
次に実際に医療費の請求が発生した際の体験談をご紹介します。こちらもScoreStudiesの場合ですので、他の保険には必ずしも当てはまりません。
医者にかかる&薬を買う
留学中に皮膚の病気を発症した関係で、皮膚科の医者にかかりました。また薬が処方されたため、最寄りの薬局で処方薬も購入しました。
アプリで申請→迅速に反映!
ScoreStudiesは保険会社Allianzがサービスを提供しており、医療費の請求はMyHealthというアプリから簡単に行うことができます。請求には、実際にかかった医療費を証明できるレシートや処方箋のアップロードと、還付先の銀行口座の登録が必要です。
筆者は診察料と薬の処方箋&レシートをアップロードしたところ、数日後には薬の購入費用が指定口座に振り込まれました。
筆者はDeductibleの対象を医療に関する全ての出費だと思っていましたが、この場合Deductibleの対象になるのは診察料のみで、薬の購入費用は別扱いで還付の対象になるようです。
このあたりの違いはまだ完全に理解できていないので、確認できたら記事に掲載したいと思います。
保険でカバーされるのは処方薬&スイス国内での購入のみ!
手元の薬を全て使い切ってしまった場合には追加で購入することになると思いますが、保険でカバーされる薬は、
- 医師の処方箋に基づいている
- スイス国内の薬局で購入
という条件があるようです(保険会社に問い合わせて判明)。
医師の診察によらずに薬を購入してしまうと保険の対象外で還付が受けられないということになってしまうため注意が必要です!
このあたりのルールについては保険会社によっても異なるかもしれません。必ずご自身の保険会社に確認を!
まとめ
以上、スイス留学中の筆者がスイスの医療保険について検討・加入・免除申請を行った過程をご紹介しました。
3社のメリットとデメリットを改めてまとめると以下のような感じです。
会社名 | メリット | デメリット |
---|---|---|
ScoreStudies | 補償内容が手厚い サポート体制が手厚い・保険料請求の処理が早い 賠償保険が契約可能 大学院が勧める保険会社(IHEIDの場合) | 保険料が高い(30歳以上はさらに高い) |
Swisscare | 保険料が安い | 補償内容は最小限 32歳以上は保険料が高くなる |
Academic Care (Groupe Mutuel) | – | – |
以上です。参考にしていただけると嬉しいです。
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