【陳奕迅】香港ポップスの奥深さに浸る。個人的おすすめ楽曲セレクション

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陳奕迅(Eason Chan)の魅力は、ヒット曲や定番バラードだけにとどまりません!

この記事では、過去に紹介した代表曲とは一線を画し、比較的新しい楽曲やコアなファンに長く愛されてきた深掘り系の楽曲を中心に、個人的お気に入り曲をセレクトしてみました。

心に刺さる歌詞、香港の世相や空気感を反映した世界観、そして年を重ねた陳奕迅だからこそ歌いこなせる複雑な感情表現に焦点をあててご紹介します。

これまで何となく聴いていた楽曲の数々でしたが、今回歌詞の意味や背景などを改めて調べたことで、新しい発見もありました。

目次

陰天快樂(2014年)

  • 発表年:2014年
  • 作詞:易家揚
  • 作曲:林俊傑
  • 編曲:C.Y. Kong
  • 収録アルバム:”Rice and Shine” 《米 . 閃》
  • 言語:普通話

「陰天快樂」は、曇り空のようなちょっと陰気ではっきりとしない天気と、過去の恋愛や思い出、そしてそれらに伴う感情の起伏が表現されています。空模様が心情を映し出す象徴として使われ、曇り空が運んでくるネガティブな気分を払いのけようとしている姿も描かれています。

タイトルの意味するところを「生日快樂(誕生日おめでとう)」と同じ文脈でとらえると、「曇りの日おめでとう」でしょうか。天気に影響されないぞという強い意志を感じます。不思議の国のアリスの「何もない日おめでとう」に似たポジティブさ?かもしれません。終始爽やかなサウンドが印象的な楽曲です。

なおタイトルは曇り空ですが、MVは晴天の公園。公式MVは貼れないようなのでライブ版をシェアします。

四季(2016年)

  • 発表年:2016年
  • 作詞:小克
  • 作曲:周國賢
  • 編曲:C.Y. Kong
  • 収録アルバム:『C’mon In~』
  • 言語:広東語

曲のテーマと背景

「四季」は、時間の流れと感情の変化を「春夏秋冬」という自然の営みに重ねて描いた作品です。人生のなかで、誰しもが経験する出会いと別れ、希望と諦め、喜びと寂しさ。

歌詞は、穢れを知らない春、傷ついた夏、もの悲しい秋、そして冬の孤独へと移り変わっていきます。季節の移ろいを通じて時間の経過を鮮やかに描く一方で、過去から動けない自分自身のことも同時に見つめています。それは恋愛かもしれないし、家族との思い出、あるいは、かつて夢中になった何かかもしれません。歌唱は終始静かで、環境音楽を思わせます。

MVの内容

MVはそれぞれの季節に対応する事物の連続で構成されており、冬を示す雪景色のシーンでは日本の風景も映し出されます。四季折々の風景が歌詞の流れとぴたりと重なり、まるで映画のワンシーンのように情緒を伝えてくれます。

季節を示す曲ですが、各季節のシンボルは桜のような分かりやすい物よりもどこかの木々や花など一見何だかわからない自然物が中心になっています。明確なイメージ情報が入らない分、視聴者は自由に感情を重ねることができるかもしれません。

孤獨患者(2011年)

  • 発表年:2011年
  • 作詞:小寒
  • 作曲:方大同
  • 収録アルバム:『?』
  • 言語:普通話

「孤獨患者」は、普通話アルバム『?』に収録された楽曲の一つで、特に多くの共感と反響を呼んだ曲。
この曲はもともと作曲者である方大同が自身で歌う予定だったものを、体調の関係で陳奕迅に譲ったという経緯があります。タイトルの「孤獨患者」は、「孤独という病を抱えている人」という意味です。

「我不唱声嘶力竭的情歌,不表示没有心碎的时刻」
(声を枯らしてラブソングを歌わないからといって、心が砕けたことがないわけじゃない)

この歌詞の一節に象徴されるように、現代社会には孤独が蔓延しており、表面的には外交的に振舞っている人こそ、心の内には深い孤独や痛みを抱えている。この曲は、そんな普段は見えない感情を静かに、でも確かな言葉で綴り、孤独に苦しむ「患者」たちに寄り添います。

現代の都市生活では、SNSでつながっていても心が離れていたり、無理に元気なふりをしたり。そういう“見えない孤独”を多くの人が抱えていますよね。この曲は、まさにそうした現代人のリアルを映し出した作品だと思います。

「孤獨患者」は、派手さのある楽曲ではありません。でも、聴き手の内側に静かに届いていく“心の耳”で聴く曲です。孤独を感じているとき、誰にも弱さを見せられないとき、そっと寄り添ってくれる一曲になるはずです。

因為愛情(2011年)

  • 発表年:2011年
  • 作詞:小柯
  • 作曲:小柯
  • 収録アルバム:『Stranger Under My Skin』
  • タイアップ:映画『將愛(Chongqing Blues)』主題歌
  • 言語:普通話

曲のテーマと背景

「因為愛情」は、陳奕迅と王菲(フェイ・ウォン)がデュエットで歌ったことで話題になりました。
この曲は小柯が手掛けた作品で、もともとシンプルなメロディとストレートな詞が魅力です。

曲のテーマはずばり「愛の記憶」。燃え上がる恋ではなく、過ぎ去った恋がもたらす静かな余韻を丁寧に描いています。

「因為愛情,不會輕易悲傷」
(愛があったから、簡単には悲しめない)

「所以一切都是幸福的模樣」
(だから、すべてが幸せの形をしていた)

このフレーズがとても印象的です。別れの歌なのに過去を責めたりしない。むしろ「あのとき本当に愛があったから、今の自分がある」と、どこか優しく肯定している曲。

「因為愛情」は、“時間が経っても忘れられない、けれど苦しまずに思い出せる愛”についての歌です。
今のパートナーとの関係に悩んでいる人にも、昔の恋にふと戻りたくなる人にも、そっと寄り添ってくれる一曲だと思います。

MVの内容

MVは主に映画『將愛』のシーンが使用されています。都会の中にいる若者たちの出会いと別れ、過去と未来が交錯するような映像です。

特徴的なのは、派手な演出や涙の演技がないこと。どこか物静かで、まるで記憶の中の出来事のように、柔らかく流れていきます。この“静かさ”が、曲の情感と非常にマッチしています。

Lonely Christmas(2002年)

  • 発表年:2002年
  • 作詞:李峻一
  • 作曲:李峻一
  • 収録アルバム:『4 A Change & Hits』
  • 言語:広東語

曲のテーマと背景

「Lonely Christmas」は、クリスマスの孤独を描いた香港ポップスの名バラードです。
香港では「クリスマスソングといえばこの曲」と思い出す人も多い、そんな定番の存在になりました。

でも、いわゆる“ロマンティックなホリデーソング”とはまったく違います。この曲は、ひとりぼっちのクリスマスに感じる“ぽっかり空いた時間”や“街の賑わいとのギャップ”を、非常にリアルに描いています。煌びやかなクリスマスの街と、その中でひとりぼっちの自分。かえって寂しさが際立ちますね…。

でも「Lonely Christmas」は、ただ寂しさを嘆くだけの曲ではありません。誰もが一度は感じたことのある“冬のひとり時間”に寄り添ってくれる一曲です。

もし今年のクリスマスをひとりで過ごすなら、この曲を聴いて「自分だけじゃない」と思えるかもしれません。
もちろん、誰かと過ごしていても…昔のクリスマスを思い出す、そんな時間にもぴったりです。

MVの内容

MVでは、クリスマスパーティーをする男女のグループと、そこにたたずむ陳奕迅が描かれます。パーティーが行われている部屋にいますが、誰も彼に気づかない様子。さて、なぜでしょう…?

その後の展開が、普通のバラードとは違う「Lonely Christmas」ならではの魅力を表しているようです。

白玫瑰(2006年)/紅玫瑰(2007年)

  • 発表年:2006年(白玫瑰)、2007年(紅玫瑰)
  • 作詞:李焯雄
  • 作曲:梁翘柏
  • 収録アルバム:『What’s Going On…?』(白玫瑰)、『认了吧』(紅玫瑰)
  • 言語:広東語(白玫瑰)、普通話(紅玫瑰)

20世紀の有名な作家・張愛玲の有名なエッセイ『紅玫瑰與白玫瑰』(赤いバラと白いバラ)にインスパイアされた、哲学的で刺激的な楽曲。両者は同じメロディーですが、作品のテーマに合わせてそれぞれ対照的な内容に仕上がっているため、本項で2曲とも扱います。

「赤」と「白」は『紅玫瑰與白玫瑰』の物語の中では「白は家庭的で純粋な女性」「赤は情熱的で奔放な女性」を指しており、作品では「どちらも異なる形で魅力的だが、手に入れると逆に“手放した方”を欲しくなってしまう…」という人間の弱さや本能が描かれています。

この主題は曲にもはっきりと表れており、特に象徴的なのが「紅玫瑰」にある以下の一節です。

「得不到的永遠在騷動 被偏愛的都有恃無恐」
(手に入らないものはいつも騒がしく、愛されすぎたものは強気になる)

「白玫瑰」で歌われている「白」は純粋に愛を求める穢れのない女性を指し、歌詞の中で登場する白い物(歯や砂糖など)はが白く美しい物が汚れていく現象は、美しい夢が悪夢に変わっていく様を投影しています。白いバラはこの世の醜さに触れた結果棘を持つことで自分を守ることを覚え、完全な白ではなくなってしまう…。「白玫瑰」という歌は、この世界では誰も無垢でいられないことを朗々と歌い上げています。

一方で「紅玫瑰」で描かれる「赤」が意味するものは、傷つきやすい夢。情熱的に輝く「赤」は非常に魅力的で、手に入れたくなります。ただし手に入れるのが難しいために魅力的に見えているだけで、手に入れてしまうと意外と平凡。途端に魅力が褪せてしまう…という側面も。ある程度の距離を保って見ているほうが幸せなのかもしれません。

張愛玲と『紅玫瑰與白玫瑰』

張愛玲(1920年~1995年)は中国上海出身の小説家。代表作は『金鎖記』『傾城之恋』『半生縁』『怨女』『赤地之恋』『秧歌』など。華麗な文体で知られ、魯迅と並び20世紀最高の中国文学者と言われることもあります。日本では魯迅ほど知名度がありませんが、その理由の一つが翻訳の難しさだと言われています(平易な日本語に訳そうとすると四字熟語の連続になってしまい、彼女の真骨頂である文体の美しさが失われてしまう)。

『紅玫瑰與白玫瑰』は1944年発表の中編小説で、イギリス留学帰りの主人公が二人の異なるタイプの女性と恋仲になるストーリー。まず登場する赤バラは留学時代の友人の妻であり、主人公と彼女は不倫関係に発展。彼女は主人公と結婚するために夫と離婚しますが、主人公は彼女に別れを切り出します。その後理想的な女性(白バラに該当)と見合い結婚をしますが、家庭を築いている赤バラを見て嫉妬する場面も。さらに理想の女性と思われていた白バラはやがて周囲の期待を裏切り始め…。人間の欲望の移ろいを鮮やかに描き出した作品です。

こちらでは広東語の「白玫瑰」を紹介します。


誰來剪月光(2017年)

  • 発表年:2017年
  • 作詞:易家揚
  • 作曲:馮穎琪
  • 収録アルバム:『C’mon In~』
  • 言語:普通話

曲のテーマと背景

「誰來剪月光(誰が月の光を切るのか)」という非常に詩的なタイトルのように、月と移り変わる心情のあいまいな関係性について歌った曲。変わらない月の存在と移ろう日常の想いを淡々と見つめた歌詞が特徴で、断ち切れない想いや関係性を月光や太陽などの天体に仮託しています。

優しく語りかけるような中国風のメロディーラインと美しいストリングスが印象的で、彼の曲としてはちょっと珍しいかもしれません。

MVについて

MVは香港とイギリスで撮影され、人気(ひとけ)のない香港の街中を歩き回る陳奕迅の映像にロンドンの情景が挟まれるような構成になっています。昔の関係を思い出すような意味深なカットも要所要所に挿入され、記憶が行ったり来たりしているのが分かります。

曲名に呼応するように映像は終始優しい光に包まれており、見ていると何だか癒される映像に仕上がっています。

まとめ

陳奕迅の音楽には、個人の心情と都市の空気を同時に描き出す不思議な力があります。

どこかユーモラスで軽やかな語り口ながら、聴き終えたあとには深い余韻が残る。そんな楽曲が彼の作品には多くあります。今回紹介した曲は、いずれも香港という街の表情やそこに暮らす人々の感情を感じ取るうえで印象的なものばかり。

政治的な変化や社会の緊張が続く香港において、それでも日々を過ごし、誰かを想い、笑ったり悩んだりしている香港人の姿が、彼の音楽という形で浮かび上がってきます。いくつかの曲は私自身が香港を旅したときに耳にしていた記憶とも重なり、街の風景とともに心に残っています。

すでに陳奕迅の音楽をよく知っている方にも、まだ触れたことがない方にも、香港のリアルな魅力を伝えるひとつのきっかけとして、このセレクションが届けば嬉しいです。

📚 陳奕迅おすすめ曲シリーズはこちら

陳奕迅の魅力をさまざまな角度から紹介するシリーズ、過去の記事もあわせてお楽しみください。

📘 第1弾:初心者向け!超定番のおすすめ曲7選
📘 第2弾:香港を感じる!街と心に響く名曲たち
📘 第3弾:(この記事)個人的おすすめ楽曲セレクション

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