出願先を見極める!大学院・プログラムの実力を分析するための3ステップ

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筆者は日本とシンガポールで計10数年のキャリアを積んだ後、2023年秋からスイス・ジュネーブにある大学院の修士課程に留学します。

海外大学院への進学を考える際にまず悩むのが、「どの大学院のどのプログラムに出願するか?」ということではないでしょうか。特に「文系」の場合は守備範囲も広くなかなか絞りづらい印象です。

出願する大学院やプログラムを選ぶには、プログラムに魅力を感じるか?や具体的なキャリアに繋がるか?といった要素ももちろん重要です。そのうえで、その他の客観的な要素(大学院の強みや合格可能性)もあわせて検討しておくと、理想の学習環境を手に入れたり、希望するキャリアへのアクセスが得られる可能性が高まります。

この記事では、筆者がミッドキャリア大学院留学を検討するにあたり、筆者が重視した客観的条件(大学院・プログラムの社会的評価や合格難易度)をご紹介します。

本記事は社会科学系の海外大学院修士課程を想定しています。他の領域には必ずしも対応しませんのでご留意ください。

目次

ステップ1:大学院・プログラムの強みを分析する

大学院の強みを考える

大学院の国際的評価立地といった要素は、学生生活や卒業後のキャリアに大きな影響を与える可能性があります。大学院の強みは、強みを持つ研究分野、卒業生の主な就職先、提携している他大学のレベルといった要素で大体把握することが可能です。また大学院の立地も、大学院における学生生活に大きな影響を及ぼします。

卒業生のキャリアから考える

大学院の多くは、卒業生の職業や年収といったキャリア関連のデータを提供しています。

例えばLSEの場合、What do LSE graduates do?のページで卒業生のキャリアに関し情報提供を行っています。

出典:What do LSE graduates do?

このページでは、卒業年・修了プログラム・学部/大学院レベルを指定すると、該当する卒業生の就労形態・業界・勤務地・ポジション・主要な就職先企業のデータが表示されるようになっています。

このように大学側が提供するデータを利用して、自分の希望する業界や職種で働ける可能性や現実的な年収について、ある程度想像することが可能です。

指導教員から考える

該当プログラムの学科のページに教員のプロフィールがあります。またシラバスを確認すれば、興味のある科目をどの教授が教えているかを知ることが可能です。

専攻したい分野の著名な教授や興味を惹かれる研究を行っている教授がいれば志望理由書にもその旨を書けますし、もし無い場合でも教授のバックグラウンド(保有している学位や著作等)を何となく知ることで学科やプログラムの雰囲気を知るうえで有用です。

協定を結んでいる大学から考える

大学院は他の大学院と学術協定を結んでいたり、共同プログラムを運営していたりします。そういった関係性は協定を結ぶに相応しい学術的レベルであると相互に認めない限り結べないと考えられるため、大学院の研究レベルの目安になります。

例として、IHEIDと共同して学位を授与する大学院(Partner programmes | IHEID (graduateinstitute.ch)を挙げます。

  • Harvard Kennedy School
  • Global Studies Institute, University of Geneva
  • Pontifícia Universidade Católica do Rio de Janeiro
  • Jackson Institute for Global Affairs at Yale University

ハーバード大やイエール大といった有名校が入っているところから、何となく研究レベルが高そうな感じがしますね。

加盟団体から考える

特定の分野で著名な大学院の場合、その分野に強みのある学術機関で構成される団体に加盟していることがあります。

例えば、IHEIDは国際関係や公共政策に強い大学の連合である「国際関係大学協会(APSIA, Association of Professional Schools of International Affairs)」に加盟しています。

日本で知られていそうな同協会の加盟校は以下のとおりです。もちろん他にも世界的な名門校が多数加盟しています。

  • Columbia University School of International and Public Affairs
  • Duke University Sanford School of Public Policy
  • Harvard University John F. Kennedy School of Government
  • Stanford University Freeman Spogli Institute for International Studies
  • Yale University Jackson School of Global Affairs

このように大学院のプロフィールを調べてみると、カラーや強みを持つ分野が分かると思います。

他にも様々な団体があるので、気になる大学院のウェブサイトで検索してみてください。

国・地域の強みを考える

国・地域によっては伝統的に特定分野に強みを持っている場合があります。また地理的条件や国の方針から特定のキャリアパスに有利な大学院もあります。

国・地域から絞り込むと視野が狭くなりやすいというデメリットがあるので要注意です。特定の国・地域で就労したい意向がある場合(ビザ取得目的)以外は、基本的に広くリサーチすることをおすすめします。

国・地域によって強みのある学問領域が異なる

国際関係と公共政策を見た場合、政治学のように比較的新しい学問分野であればアメリカ、国際関係のように伝統的な学問分野であればヨーロッパが強い傾向があるようです。

国・地域やプログラムによって期間が異なる

国・地域やプログラムによって、1年~2年と期間が異なります。

期間に関し検討すべきメリットやデメリットについてはこちらの記事にまとめています。

ステップ2:学生生活を分析する

プログラムの学生数や国籍は、良い学生生活と将来の人脈という両方の意味で非常に重要です。

プログラムの学生数と属性(国籍)から考える

プログラムの学生数が把握できると、プログラムの雰囲気や友人の作りやすさ、教授との距離感が想像できます。

また大学院やプログラムによって、自国民が多く入学する学校・プログラムや、反対に留学生が大半を占める学校・プログラムがあります。該当のデータが示されているかは大学院によりますが、大まかな傾向や学生に関するデータやアドミッションポリシーからうかがい知ることができます。

学生の属性を知る方法1:学生のデータを確認する

大学院によっては詳細な学生のデータを公開していることがあります。

LSEを例にとると、プログラムごとの学生数や国籍別の学生数といったデータを公開しており、誰でも参照することができます。

出典:Statistics on Students (lse.ac.uk)

また別のページでは、プログラムごとの学生の大まかな出身地などを知ることができます。

出典:Department Student Numbers (lse.ac.uk)

学生の属性を知る方法2:アドミッションポリシーを確認する

学生に関するデータを公開していない場合でも、アドミッションポリシーにそのような内容が含まれている場合があります。

以下はLSE修士課程のアドミッションポリシーの抜粋です。ダイバーシティーや包摂といった要素が重視されていることが分かります。この内容から、学生の国籍や年齢等が偏らないように配慮されていることが想像されます。

2.2. Equity, Diversity and Inclusion

Equity, diversity and inclusion are key priorities in LSE Strategy 2030:
“We will draw together talent from all places and backgrounds, diversifying our faculty and
widening access for students to ensure LSE is a vibrant and stimulating place to work and
study, where different perspectives thrive through robust but respectful debate.”


Furthermore, LSE is committed to fulfilling its legal obligations under the Equality Act, which is, in specific regard to the application process, to avoid discriminating against applicants on the grounds of age, disability, gender, gender-reassignment, marriage and civil partnership, pregnancy and maternity, race, religion or belief and sexual orientation.


It is in accordance with this legal requirement, and with LSE’s strong commitment to
advancement of equal opportunities, that admission decisions are made holistically based on academic merit, motivation and potential.

Postgraduate Admissions Policy (lse.ac.uk)

学生の属性によって想定される環境の違い

学生の属性を知ることにより、大学院やプログラムの社会的な立ち位置を推測することができます。

自国民が多い大学院/留学生が多い大学院

まず自国民が多い大学院と留学生の多い大学院では以下のような傾向があることが想像できます。

傾向想定されるメリット想定されるデメリット
自国民が多いその国・地域の文化や言語を学ぶのに適している国際的評価・知名度が高くない可能性がある
友人(コネ)が作りにくい可能性がある
留学生が多い国際的評価・知名度が高い
友人(コネ)が作りやすい
その国・地域の文化や言語を深く学べない可能性がある
新卒が多いプログラム/キャリアを積んでからの入学者が多いプログラム

次に大学院・プログラムごとの傾向です。

大学院・プログラムの傾向学生の傾向専攻の例
アカデミック・研究大学院・年齢層は広い(20代~50代+)
・奨学金
・自費留学
職歴不要のプログラム全般
プロフェッショナル・専門職大学院・年齢層高め(30代~)
・休職もしくは派遣留学多し
・キャリア志向強
MBA、MPA
特定の国・地域出身の学生が多いプログラムがある

国籍によっても大体の傾向があるようです。こちらは未検証の噂レベルなので参考までに。

プログラム分野学生の傾向専攻の例
実学・今後伸びが予想される分野中国、インド、途上国からの学生が多い(傾向がある)ファイナンス、会計学、MBA
芸術・伝統的な分野先進国からの学生が多い(傾向がある)政治学

大学院の立地から考える

都市型と郊外型の大学の特徴とメリット・デメリットをざっくりと紹介します。

都市型大学

キャンパス・学生寮は市内に分散しており、常に移動が必要です。都市にあることで様々な大学の学生やその都市に暮らす人々と交流が生まれるので、就職に繋がるチャンスは拾いやすいかもしれません。

ただし学内の人間関係は少人数のプログラムでない限り薄めになりがち。モダンな施設が多い傾向があり、風情はあまり感じられないかも。歴史の長い学校もあれば新しい学校もある。

郊外型大学

キャンパス・学生寮が同一の敷地内にあり、一つの生活圏を構成。人間関係は基本的に学内に閉じており濃密。誘惑が無い(ことが多い)ため学業に集中できる環境。

外部の人間との交流は意識して行う必要があり、就職のチャンスはアンテナを常に高く張っておかないと厳しい(伝統的トップ校は別)。歴史の長い学校が多く、独特の風情を味わえるかも。

ステップ3:費用を分析する

国・地域による学費・生活費の違い

アメリカやイギリスは一般に高く、大陸ヨーロッパの公立の学校であれば無料や格安の場合もあります。ただしスイスのように学費は比較的リーズナブルでも生活費が非常に高いこともあるので要注意。

大学のウェブサイトには必ず学生生活に関するページが設けられておりそこに必要な費用も掲載されているので、事前のチェックが重要です。大学によっては節約のヒントが提供されている場合も。

大学院・プログラムによる学費の違い

比較的教育費が安価な国であっても、ビジネススクールや特殊な位置づけの学校(フランスのグランゼコール等)は学費が高い傾向があります。またプログラムの性質(専門職やフィールドトリップを多く行うようなもの)によっては学費は高めに設定されることが多いようです。

学費・生活費はどの程度までなら賄えるか

大学が独自に奨学金を授与していたり、経済的に厳しい学生向けに足りない分を援助する仕組みがあったりと、日本で給付型奨学金が得られない場合でも別の方法で金銭的な負担が減らせる可能性があります。

経済状況に関係なく優秀であると認められれば受給できたり、逆に厳しめにニーズを問われたりと、奨学金の制度によって目的もプロセスも千差万別なので、出願先を決める際に大学院のウェブサイトをよく確認しましょう。

複数のプログラム・大学院で迷ったら?

オンライン・オフラインイベントに参加してみる

多くの大学は定期的に大学自体やプログラムの紹介イベントを開催しています。遠隔地の出願検討者向けにオンライン開催の場合もあるので、そういった機会を利用して直接説明を受けたり質問をすると生の情報を得られます。

現役学生・卒業生に聞いてみる

知り合いに出願を検討している大学院の学生や卒業生がいたら、大学院の雰囲気やプログラムの特徴、学生の構成について聞いてみると有用な判断材料が得られます。

もしそのような人がいない場合は、LinkedIn(リンクトイン。ビジネス特化型SNS)で該当大学院・プログラムの学生や卒業生を見つけてコンタクトを取ってみることをおすすめします。

いきなり話しかけるのは少しハードルが高いかもしれませんが、自分の後輩になるかもしれない人を邪険に扱う人は少ないので大丈夫です!親身に色々と教えてくれる人も多いですし、上手くいけば直接会って話を聞くこともできますよ。

実際に訪問してみる

可能であれば大学に事前にコンタクトを取って実際に訪問してみると学生生活のイメージが湧きますし、教授や学生と話す機会が得られればウェブサイトに載らないような生の情報が得られるかもしれません。

また大学によっては休暇中に学生寮を旅行者向けに貸していることがあります。短期間でも泊まってみるとその大学の学生気分を味わえるかもしれません。

サマースクールに参加する

もし時間やお金が捻出でき、出願要件を満たしているのであれば、希望する大学が開催するサマースクールに参加するのもひとつのオプションです。そこで教授にポジティブな印象を与えることができれば出願時にプラスに働くかもしれませんし、その大学院に出願予定の人に出会える可能性もあります。

ランキングを参考にする

海外大学院は受験生の母集団が全く異なるため、入学難易度は偏差値では測れません。

しかし、著名な世界大学ランキングを参考にすることで大学の大体の評価を知ることができます。信頼度の高いランキングとして有名なのは、QS世界大学ランキング(イギリスの大学評価機関クアクアレリ・シモンズが実施)やTHEランキング(タイムス・ハイアー・エデュケーションが中心となって実施)あたりでしょうか。

各大学ランキングはそれぞれ異なる基準に基づいて作成されています。人によって重視する項目(研究力や学生満足度など)が違う以上、ランキング上位の大学が全ての人にとって良い大学とは限りません。また単科大学はランクが低く出がちであったり、そもそもランキングに参加していない大学も存在します。

評価指標を理解したうえで、自分の重視する点において評価の高い大学を探すのに活用しましょう。

おわりに

この記事では、出願する大学院について検討するにあたり、強みを持つ分野や国際的評価といった要素から分析する方法をお伝えしました。

この情報がお役に立てば幸いです。

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