フランス独特のエリート養成機関・グランゼコールとは?その特徴や実際に授業を受けた体験談を紹介します

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エリート教育機関としてフランス社会に深い影響を与えている「グランゼコール」。フランスの教育制度の中で最も特徴的な存在として知られています。

グランゼコールは日本人から見ると普通の大学と同じように映りますが、一般的な大学とは異なる入学プロセスや教育方針を持つ全く別の教育機関。厳しい選抜を勝ち抜き将来を嘱望された学生たちが、日々勉学に勤しんでいます。

筆者が交換留学中のEMリヨンビジネススクールも、グランゼコールのひとつに数えられます。

本記事では、筆者の体験を交えつつ、グランゼコール制度の成り立ちから社会的影響まで、幅広く探ります。

目次

フランス独特の制度

まずはグランゼコールの特徴についてざっくりとご紹介します。

制度の概要

グランゼコールはルイ14世の時代に国家建築の基礎となる土木工学の優秀な人材を育成するために設立された機関(国立土木学校)が制度の元になっており、分野が絞られているのが大きな特徴です。

現在、グランゼコールはおよそ200校以上あり、以下のような分野に特化しています。

  • 高等師範学校(研究者の養成機関)
  • 技師学校(工学・技術系)
  • 商業・経営学校(経営幹部を養成する、いわゆるビジネススクール)
  • 政治学・公共行政(高級官僚の養成機関としての側面も)
  • 士官学校(軍人を養成する)

法学や医学のようにグランゼコールでは扱わない分野も存在し、それらの分野を学ぶ場合は大学に行きます。

これだけ聞くと普通の大学とどう違うの?というところですが、まず専攻プロセスが圧倒的に違います。

  • 大学→入試なし
  • グランゼコール→複数回の選考プロセスがある

そして学費も大学が格安(年間数百ユーロ)なのに対しグランゼコールは非常に高額。商業系グランゼコールの授業料は特に高く、年間10,000ユーロを超える学費が発生します。

ただし国際的な認知度が高いかと言えばそうでもなく、グランゼコール卒業生はフランス国内では幹部候補生として非常に高い評価を受ける一方、他国では一般の大学卒業程度と同等に扱われることが多いようです。

選考プロセス

グランゼコールへの入学には、バカロレア(高校卒業資格)の取得後2~3年間の準備学級(Classes préparatoires)が必要な場合が多いです。

試験は極めて競争的でありしかも複数回の選別をこなすことになるので、学生の負担は相当なもの。

フランスではグランゼコールに限らず厳しい選抜を課すことが多いイメージですね。

選抜の内容は分野によって異なりますが、日本の大学入試のように「暗記していれば解ける」タイプの問題ではなく、本質を突き詰めて考えるような問題が出題されるようです。

この傾向はフランス語の資格試験であるDELF/DALFでも片鱗が見られ、例えばDALF C1の場合、スピーキングテストでは1時間かけて社会問題などに関する文章を読んだうえで、内容を整理して試験官にプレゼンするエクスポゼ(exposé)と試験官と討論するデバ(débat)が課されます。
IELTSのスピーキングテストではアカデミックモジュールであっても日常的な内容が主体になることを考えると非常に特徴的と言えるでしょう。

地域との結びつき

また厳しい選抜を行うエリート養成機関以外の特徴として、地域経済と密接に連携しているという点が挙げられ、一部の学校では地方自治体や地域企業からの支援を受けています。

これにより、地方の発展や地方出身者のキャリア形成に寄与しています。

例えばEMリヨンビジネススクールは設立当初からリヨン商工会議所と強い結びつきを有しており、リヨン市やリヨンメトロポールと共同で開講している授業があったりします。

筆者はリヨンメトロポールが関わっている授業に参加。元公務員としては非常に興味深い内容でした!

グランゼコールの社会的影響と批判

エリート主義の権化であり優秀な人材を輩出する制度としてフランスを支えてきたグランゼコール制度。その影響はかなりのものです。ただし近年は批判もあり、制度改革も行われています。

社会的影響

グランゼコールは、フランスのエリート養成機関として社会の中核を担ってきました。特に、卒業生はフランスの政治や経済において重要な役割を果たしています。

例えば政治学院は高級官僚へのパスポートのような役割を担っていますし、企業によっては一定程度以上の役職に就くために商業系グランゼコールを卒業した経歴がかなりプラスに働く(状況によっては必須条件)ことも考えると、その役割の大きさが分かります。

フランス企業のフランス人幹部はほぼ全員と言っていいほどグランゼコールを出ていますね。

批判と改革

一方で、こうした硬直的なエリート主義は批判の的にも。

特に2018年から続くフランス政府への抗議活動である黄色いベスト運動はその傾向に拍車をかけており、2022年にはフランス国立行政学院(ENA)が廃校となり、国立公務学院(INSP)に統合されるなどの改革が行われています。

グランゼコールで実際に授業を受けてみた感想

さてここからは、筆者が実際にグランゼコールで授業を受けてみた感想について述べたいと思います。

参考までに筆者の体験は商業系グランゼコールであり、また正規の学生ではなく交換留学生のため、選考の厳しさは体験していません。

授業の特色

まずグランゼコールの教育は比較的少人数制であり、個別指導が行われる点が大きな特徴。

特にビジネススクールでは理論的な知識だけでなく実践的なプロジェクトやインターンシップも重視されており、EMリヨンビジネススクールでは選択制のギャップイヤーが取得できるため、修学年限を気にせずにインターンシップや自己啓発に取り組むことが可能です。

国際化が進む現代において留学プログラムや語学教育も積極的に取り入れられており、各種外国語の他、フランス語を母語としない学生向けにフランス語を学ぶ授業も開講しています。

授業形式はビジネススクールの場合、ディスカッションとグループワークが中心。リーディング量はかなり少な目でした。

評価は20点満点で、19点や20点を取る学生は非常に少ないそうです。その一方で最高評価の対象になる点数が広かったり(15点~20点)、進級要件がそこまで厳しくなかったりと、事前に聞いていた厳しさのようなものは正直感じられませんでした。

ビジネスを勉強するのは初めてでしたが、全く問題なく受講することができました。

グランゼコールのフランス人学生はどんな感じ?

これまでの内容を踏まえるとグランゼコールに在籍しているフランス人学生はさぞかし優秀で勤勉だろう…と思うところですが、現実は全く異なり、基本的にあまりやる気がありません。授業中は後ろの席でSNSに夢中ですし課題はいつもギリギリ提出。

色々な国籍の学生とグループワークに取り組みましたが、ほぼ全員一致でグループワークで一緒になりたくない国籍ナンバーワンがフランスでした。まともに作業をしない割に言い訳が多いので、教授も手を焼いているみたい…。

非常に優秀な学生の集まりのはずなのですが、その優秀さが全く発揮されていません。

さて、なぜこうなってしまうのか?ですが、何度かフランス人と話をした結果、どうやら厳しすぎる選抜のせいで入学する頃には燃え尽きてしまっているのが最大の原因らしいということが分かりました。

またイタリア人の友人曰く、グランゼコール卒の場合はフランス企業にはほぼ大学名だけで入れるため、成績をそこまで気にしなくても良いのも理由の一つだそうです。

日本の大学生が遊びまくっているのと同じものを感じます。

さらに授業態度以外に気になった点が、フランス人学生はすぐにフランス人同士でフランス語で話すこと。母語の方が何かと便利なことは否定しませんが、フランス語が分からないメンバーが会話に混じっていてもお構いなしなのはいただけません。

厳しい選抜をパスした優秀な学生であっても、英語が出来るかどうかは話が別のようです。

もちろんフランス人という括りは大きすぎるので個人による差はありますが、筆者の肌感覚としては残念ながらかなりの割合のフランス人がこの傾向に当てはまっていました…。

交換留学生の方が正規学生よりもやる気があるってどういうこと…?

まとめ

本記事では、グランゼコールの概要と筆者の体験談をご紹介しました。

総括感想としては、事前の評判と現場に割と乖離がある気がしてなりません…。こういった点もエリート主義の批判に繋がっているのかもしれませんね。

以上です。

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