パリ旅行を計画するときに気になるのが「治安」の問題ではないでしょうか。
「スリが多い」「夜は危ない」など、不安をあおるような情報を耳にして心配になる方も多いと思います。
確かにパリは日本よりも治安面で注意が必要な都市です。しかし実際には、危険が集中しているエリアや、観光客を狙った典型的な手口が決まっており、正しい知識と少しの準備があれば被害を避けることは十分可能です。
本記事では、
- スポット地区・季節ごとの治安傾向(&歴史的背景)
- 観光客が狙われやすい犯罪の手口と対策
- 防犯の心構えや具体的な備え
を徹底的に解説します。
パリを「危ない街」として避けるのではなく、理解して安全に楽しむための実践的なガイドとしてぜひお役立てください。
局地的に犯罪が多発する観光スポット
パリの治安は区や通りによって大きく異なります。観光地であっても安全とは限らず、特定のスポットや時間帯には旅行者を狙った軽犯罪が集中する傾向があります。ここでは、特に注意したいエリアや状況を整理します。
有名美術館周辺(ルーヴル、オルセーなど)
パリには世界最大級の美術館が多く、世界中から観光客が集まります。
そのため周辺は観光客を狙った物売りやスリ、署名詐欺などが頻発するスポットでもあります。
ルーヴル美術館やオルセー美術館の周辺では、路上物売りや署名詐欺が特に多く報告されています。観光気分で油断していると、思わぬトラブルに巻き込まれることがあります。

さらに、館内も常に混雑しており、スリにとっては格好の環境です。
展示室や有名作品の前だけでなく、エントランスやチケット売り場、館内ショップでも被害事例があります。

写真を撮りたくなるスポットばかりですが、荷物や財布からは常に目を離さないようにしましょう。
エッフェル塔~トロカデロ広場
パリ観光のハイライトであるエッフェル塔と、その対岸にあるトロカデロ広場。昼夜を問わず観光客が集まり、記念撮影を楽しむ人であふれます。
しかしその人混みを狙って、詐欺や物売りが多発するエリアでもあります。

エッフェル塔のふもとや芝生広場では、しつこい物売りが観光客に声をかけてきます。光るおもちゃや偽物のエッフェル塔グッズを売りつけられるケースが典型的です。断ってもしつこくつきまとうこともあります。

また、塔のたもとでは署名詐欺が目立ちます。チャリティーを装って署名を求め、最後に寄付を強要されるケースが多く報告されています。
さらに、対岸のトロカデロ庭園に上る坂道では「イカサマ賭博(詐欺)」が頻発。カップの下にボールを隠し当てさせるゲーム形式で、仲間が勝って見せて観光客を誘い込みますが、必ず負ける仕組みになっています。見物しているだけでも巻き込まれることがあるので、近寄らないのが一番の防御策です。
エッフェル塔は絶景スポットであると同時に、パリでもっとも「狙われやすい場所」のひとつです。写真や夜景に夢中になる時間こそ、貴重品への警戒を怠らないようにしましょう。
モンマルトルの丘
芸術家の街として知られるモンマルトルは、サクレ・クール寺院や丘からの眺めを目当てに多くの観光客が訪れます。しかし、その観光客の多さを狙った詐欺や物売りが常に活動しているエリアでもあります。

サクレ・クール寺院前の広場では署名詐欺が頻発します。慈善活動を装った署名用紙を差し出し、署名をすると寄付を強要される手口です。時間によってはサクレ・クール寺院脇に出没することもあります。
丘のふもとのテラス(メリーゴーランドがある広場の一段上)にはミサンガ詐欺が多く、観光客の手首をつかんでミサンガを巻きつけ、高額請求される被害が目立ちます。紐を持った人物が近づいてきたら足早に離れましょう。
さらに、サクレ・クールへ続く階段や広場には物売りも多数出没します。このエリアではよくあるエッフェル塔の置物やパリ土産に加えて、錠前(サクレ・クール寺院前の金網に掛ける)を売っている物売りが多いのも特徴的。押し売りをしてくるようなことはありませんが、警戒するに越したことはありません。
また、テルトル広場周辺では似顔絵詐欺も見られます。観光客に声をかけて似顔絵を描き始め、完成後に高額を請求するという手口です。雰囲気に流されて受けてしまうとトラブルになりやすいため、事前に料金を確認しないまま依頼するのは避けましょう。

モンマルトルはパリらしい魅力にあふれる場所ですが、観光客を狙った手口が集中しているエリアでもあります。景色やアートを楽しむときこそ、常に周囲に気を配り、安易に声をかけてくる人には関わらないようにしましょう。
ノートルダム大聖堂周辺
ノートルダム大聖堂はパリを代表する観光名所のひとつで、再オープン以降は再び多くの旅行者が訪れています。
周辺は軍や警察による巡回が常時行われており、テロ対策の観点からも「治安が守られている」と感じられる場所です。

ただし、観光客が集まる場所である以上、署名詐欺やスリといった典型的な観光地のリスクは依然として存在します。
ルーヴルやモンマルトルほど顕著ではないものの、「人が集まる場所=狙われる可能性がある」という点を意識し、最低限の警戒は怠らないようにしましょう。
駅や電車内、繁華街でも注意が必要
観光名所ではなくても、人が集中する場所には必ずリスクがあります。
パリでは日常的に駅や電車内、繁華街での軽犯罪が発生しており、旅行者にとって油断できないポイントです。華やかに見える都市空間の裏側で、スリや詐欺グループが常に観光客を観察していることを意識しておきましょう。
メトロ
パリ市民の足として毎日数百万人が利用するメトロは、旅行者にとっても欠かせない移動手段です。しかしその利便性と引き換えに、犯罪リスクは常に存在します。
車内ではスリや扉際でのひったくりが代表的な被害です。特に混雑時やドアの開閉の瞬間に狙われやすく、降りる直前にバッグを奪われて逃げられるケースが典型例です。
駅構内や改札付近でも危険はあります。
駅職員や親切な市民を装って近づき、乗車券を売りつけたり、クレジットカードのスキミングを狙う詐欺が発生しています。慣れない環境で助けを求めたくなりますが、安易に声をかけてきた人に頼らず、必ず自分から公式の窓口に出向きましょう。

さらに改札では、後ろにぴったり付いてきてキセル乗車を試みる人がいます。こうした行為に巻き込まれると自分まで不正乗車とみなされかねないため、注意が必要です。
加えて、駅構内には浮浪者が寝ていたり、若者グループがたむろしていたりすることも多く、旅行者にとって居心地が悪く感じられる場面も少なくありません。観光名所とは違う都市の日常だからこそ、油断せずに利用する意識が求められます。
RER
パリ市内と郊外を結ぶRERは、在住者はもちろん旅行者にとっても利用頻度の高い路線です。特にシャルル・ド・ゴール空港と市内を直結する RER B線 は、観光客が必ずと言ってよいほど利用するため、軽犯罪の温床にもなっています。

車内では大きなスーツケースやリュックを持つ観光客が狙われやすく、グループで連携するスリが典型的な手口です。混雑した乗降時や座席に荷物を置いた隙に被害に遭うことが多く、車内でスマートフォンを操作するのも危険です。
駅構内でも注意が必要です。北駅やシャトレなどの乗り換え拠点では、メトロと同様に親切な案内役を装って近づき、切符の購入を手伝うふりをして過剰料金を要求したり、カードを読み取ってスキミングする詐欺が報告されています。また「余った切符を安く譲る」と声をかけてくる人もいますが、多くは無効なチケットや既に使用済みの切符です。こうした行為に巻き込まれると、検札で高額の罰金を科されることもあるため絶対に応じないようにしましょう。
さらに、駅の通路や改札付近には浮浪者や暇を持て余した若者グループがたむろしている光景も見られます。雰囲気に飲まれて焦ったり、立ち止まって地図を確認したりすると狙われやすくなるので、利用時は常に周囲に注意を払い、動きを止めないことが大切です。
RERは空港アクセスなどに欠かせない一方で、観光客にとってリスクが高い路線です。特に空港アクセスついては、荷物の状況や同行人数などに応じてロワシーバスやタクシーなど別の手段を検討することも必要です。
北駅、東駅周辺
パリにはいくつかターミナル駅がありますが、そのなかでも北駅(Gare du Nord)と東駅(Gare de l’Est)は、国際列車や空港アクセスの拠点であり、非常に多くの人が利用する場所。しかし、旅行者にとって安心できる空間とは言いがたいのが実情です。
構内や周辺では、メトロやRERにみられる軽犯罪の発生率が高いことに加え、意味もなくふらついている人物や、暇を持て余した若者グループがたむろしている光景が日常的に見られます。黒人系の若者が目立つこともあり、旅行者にとっては独特の居心地の悪い雰囲気が漂います。
加えて、若者同士の口論や小競り合いが突然乱闘に発展することもあります。大声で怒鳴り合ったり、突き飛ばし合いが始まると、周囲は一気に緊張した雰囲気に包まれます。旅行者が直接巻き込まれることは稀ですが、少しでも不穏な空気を感じたら立ち止まらず、速やかにその場を離れることが最も安全です。
このような場所なので、宿泊拠点としては可能な限り避けたい場所です。
北駅や東駅は国際列車やRERの利用拠点として避けられない場所ですが、常に周囲に気を配り、不必要に構内や周辺に滞在しないことがリスクを減らす基本的な対策となります。
レ・アール~ポンピドゥー・センター
巨大な地下商業施設と交通拠点が一体化したレ・アール周辺は一見便利な場所ですが、治安面では注意が必要です
広大な地下通路や複雑な構造により人目が届きにくく、浮浪者が横たわっていたり、若者グループがたむろしている光景が日常的に見られます。とくに深夜や人通りが少ない時間帯は独特の緊張感があり、旅行者が安心できる雰囲気とは言えません。

筆者はレ・アールに近いモントルグイユ通りで若者グループのからかいにあったことがあります。
また、近接するポンピドゥー・センター周辺も人の出入りが激しく、観光客を狙ったスリが目立つエリアです。
不自然に近づいてくる人物や過剰に話しかけてくる人物には注意が必要で、立ち止まって地図を確認するのも危険です。少しでも不穏な空気を感じたら、その場を離れることが最善の防御になります。
オペラ座周辺
オペラ座一帯は観光とショッピングの中心地。
ギャラリー・ラファイエットやプランタンといったデパートには世界中の旅行者が押し寄せますが、同時に買い物袋やブランドバッグを狙うスリの標的になっています。
試着室やエスカレーター付近で置き引きに遭う事例も珍しくありません。
さらに見落としがちなのが、ここがロワシーバス(空港バス)の発着点であること。長時間のフライトを終えたばかりの観光客は疲労と安心感から警戒心が緩みやすく、空港から到着した直後の大きなスーツケースを狙う犯罪が多発しています。

最近はあまり見かけなくなりましたが、以前はロワシーバスの降車場の近くで署名詐欺を多く見かけました。
オペラ座は華やかで安全そうに見える場所ですが、「空港直結=狙われやすい玄関口」として捉え、荷物管理には細心の注意を払いましょう。
地区ごとの治安傾向
続いて地区ごとの治安特徴を見ていきます。
下の地図は、パリ20区を治安傾向ごとに色分けしたもの。
もちろん「一概に危険/安全」とは言い切れませんが、旅行者が滞在先を選んだり観光ルートを考えるうえでの目安になります。
- 赤(危険):地域全体としてリスクが高く、観光は注意、宿泊や夜歩きはおすすめしない。
- 黄(要注意):観光地が多いが、その分旅行者が狙われやすい。基本的に安全だが注意は必要。
- 濃緑(混在):落ち着いたエリアと要注意エリアが混在。場所を選べば安全に滞在できる。
- 明緑(安全):全体的に落ち着いたエリア。一般的な海外旅行の注意で十分。

危険エリア(赤色)
赤色で示した地域は、区全体として治安リスクが高いとされるエリアです。
観光客を狙った軽犯罪が日常的に発生しているだけでなく、薬物問題や治安対策の強化が行政レベルで行われている地区も含まれています。昼間であっても注意が必要な場所が多く、夜間や宿泊地としての利用はおすすめできません。
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18区:歓楽街と移民街が混在
18区は芸術家の街モンマルトルを擁し、サクレ・クール寺院や石畳の坂道などが観光名所として知られています。しかし区全体を見ると、治安面では注意が必要なエリアが広がっています。
特に南部のピガールは、かつて赤線地帯だった歴史を持つ歓楽街であり、現在もネオン街やキャバレー、アダルトショップが並ぶナイトライフの中心地です。観光客が多く訪れる場所ですが、夜間は雰囲気が荒れるため警戒が必要です。
さらにモンマルトルの北側に広がるバルベス、シャトー・ルージュ、ラ・シャペル一帯は、長年にわたり治安問題の温床とされてきました。この地域は2013年に国家の「優先治安ゾーン」に指定されるなど、政府や市による重点的な治安対策の対象となってきた歴史があります。
昼間は人通りが多く市場も賑わいますが、夜はスリや押し売り、薬物関連のトラブルが増えるため、旅行者には宿泊地としておすすめできません。
19区:薬物問題が集中
19区はラ・ヴィレット公園や音楽ホール、運河沿いの散策路などカルチャー要素の強い地区ですが、同時にパリの治安問題が集中してきた場所でもあります。
特にスタリングラードやジョレス周辺は、1980年代から薬物問題の集積地として知られ、クラック・コカイン利用者のたまり場になってきました。このため市や警察が繰り返し移送や撤去を行っており、2021年には警視庁がスタリングラード周辺からポルト・ド・ラ・ヴィレットへ利用者を移送する措置を取りました。2022年には集団キャンプの撤去作戦が実施され、2024年には行政裁判所がこの移送措置を適法と判断するなど、司法判断にまで発展しています。
こうした経緯からもわかる通り、19区は治安上の課題が区全体に及んでおり、夜間は強盗や薬物絡みの事件が発生しやすいとされています。旅行者にとっては観光目的であっても十分に注意が必要で、宿泊地としては避けるべき地域にあたります。
20区:社会経済的課題を抱えるエリア
20区はパリ東端に位置し、多文化が交わる下町的な雰囲気を持つ一方で、社会経済的な課題を多く抱えています。行政文書では、グラン・ベルヴィルやコンパン=ペルポールなど区の約42%が「都市政策の重点地区」に指定されており、所得水準もパリ平均を下回ることが示されています。
つまり、行政的にも治安・社会問題に重点対応が必要とされている地域です。
さらに、ベルヴィル周辺では近年発砲致死事件を含む重大犯罪の発生が報道されており、夜間の一人歩きは特にリスクが高いと考えられます。芸術や多文化の香りを感じられる一方で、観光や滞在先としては十分な注意が求められるエリアです。
10区:南北で差はあるが全体的に治安不安定
10区は、ヨーロッパ各地と結ばれる交通の要である北駅(Gare du Nord)や東駅(Gare de l’Est)を抱えています。しかし、この一帯はスリや詐欺、荷物を狙った犯行の多発地帯として国際的にも注意が呼びかけられており、旅行者にとっては最も警戒が必要な場所のひとつです。大きなスーツケースを持って歩く観光客が狙われやすく、宿泊地としては不向きといえるでしょう。
一方、区の南側に広がるカナル・サンマルタンやレピュブリック周辺は、昼間は運河沿いの散策やカフェが楽しめる落ち着いた雰囲気があります。ただし夜になると酔客や薬物使用者による迷惑行為が報告されており、旅行ガイドでも「10区は夜間に犯罪率が上がる地区」として避けるべきエリアに含まれることがあります。現地の体験談の中には「駅周辺を除けば夜も安全だった」という声もあるものの、全体として安心して滞在できる場所とは言いがたいのが実情です。
このように、10区は北側・南側を問わず不安定さが残っているため、旅行者にとっては「危険エリア(赤)」に分類されます。日中に運河沿いを散策する程度であれば問題は少ないものの、夜間の外出や宿泊拠点としての利用は避けるのが無難です。
このように、18区北部、19区、20区、10区といった赤色で示されたエリアは、観光地や交通拠点を含みながらも、国家や市による重点的な治安対策の対象となってきた歴史と、現在も続く問題を抱えている地域です。旅行者にとっては宿泊地として避けるのが無難であり、観光や移動で訪れる際にも十分な注意が必要です。
要注意エリア(黄色)
黄色で示したのは、観光地として人気があり旅行者が必ず足を運ぶ場所が多いエリアです。
昼間は安心して観光できることがほとんどで夜間も人通りの多いエリアですが、人混みの多さを狙ったスリや置き引き、観光客向けの詐欺が繰り返し報告されています。
旅行を楽しむ上で特別に身構える必要はありませんが、貴重品の管理や夜間の行動には注意を払うべき地域です。
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1〜4区:歴史的中心部とマレ地区
ルーヴル美術館やチュイルリー庭園、コンコルド広場を抱える1区から、パリ市庁舎やノートルダム大聖堂を擁する4区まで、この一帯はパリ観光の中心です。

マレ地区(3区・4区)はおしゃれなブティックやカフェが並び、昼夜を問わず観光客が絶えません。
治安が特別に悪いわけではありませんが、人混みに紛れたスリや観光客を狙った詐欺が頻発するため、バッグや財布を目立たせない工夫が必要です。夜間は人通りが減る通りもあり、歓楽街に近い場所では雰囲気が変わることがあるため、帰宅が遅くなる際は注意したいエリアです。
5〜7区:学生街とエッフェル塔周辺
5区はソルボンヌ大学を中心とするカルチェ・ラタンで、学生街らしい活気があります。
パンテオンやセーヌ川沿いは観光客も多く、穏やかな雰囲気の一方で混雑を狙ったスリのリスクがあります。
6区のサン=ジェルマン=デ=プレはカフェ文化や高級ブティックで知られ、比較的落ち着いた地区ですが、観光客の多さゆえ軽犯罪が皆無ではありません。
そして7区にはエッフェル塔やアンヴァリッドがあり、昼も夜も観光客であふれています。夜のライトアップ鑑賞時には、写真撮影に夢中になってバッグを足元に置くなどの油断から置き引きに遭うケースが報告されています。
エッフェル塔周辺は観光客狙いの軽犯罪が特に多いため、見学時には一層の注意が必要です。
8・9区:シャンゼリゼとオペラ座・デパート周辺
8区のシャンゼリゼ通りは、凱旋門から伸びる華やかな大通りにブランドショップが軒を連ね、世界中の旅行者が集まる場所です。
日中は警備も行き届いていますが、混雑の多さを利用したスリや詐欺の被害が目立ちます。
9区にはオペラ・ガルニエやギャラリー・ラファイエット、プランタンといった大型デパートがあり、買い物客で常に賑わいます。デパート内では試着室やレジ待ちの列での置き引きが特に多いため、荷物からは決して目を離さないようにしましょう。
11・12区:バスティーユと国鉄リヨン駅
11区のバスティーユ周辺は、昼間は比較的落ち着いていますが、夜になるとバーやクラブに人が集まり、酔客や観光客を狙うスリやトラブルが報告されています。パリのナイトライフを体験できる地区ですが、夜遊びをする場合は複数人で行動した方が安心です。
12区には南仏方面へ向かう主要ターミナル、国鉄リヨン駅(Gare de Lyon)があり、大きな荷物を持つ旅行者が狙われやすい環境です。ベルシー公園など周辺の観光スポット自体はのんびりしていますが、駅周辺では特に注意が必要です。
また、ベルシー公園近くにはFlixBusなどが発着する長距離バスターミナルもありますが、この周辺も治安面では注意が必要とされるため、バスを利用する際は周囲に気を配るようにしましょう。
このように、1〜12区の中心部には世界的に有名な観光地が集まっており、パリらしい町並みや観光を楽しめるエリア。このエリアに宿を取れば旅を楽しむことができるでしょう。ただしその分観光客を狙った犯罪が発生しやすいという側面もあるので、注意は怠らないようにすることが大切です。
安全・要注意が混在するエリア(黄緑)
黄緑で示したのは「安全」と「要注意」が同居しているエリアです。
これらの区は全体としては住宅街が多く落ち着いた雰囲気があり、観光の拠点や宿泊地として選ばれることも少なくありませんが、大規模駅の周辺や移民が多く集まる地域など、局所的に注意が必要とされる場所が存在します。
つまり「日常的には安心して過ごせるが、スポットごとにリスクの差がある」という意味で安全と要注意が混在するエリアといえます。同じエリアでも全く異なる空気になるので、知らずに迷い込んでしまわないように知識を入れておきましょう。
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13区:アジア人街と再開発エリア
13区はパリ南東部に位置し、市内最大の中華街を擁することで知られています。
アベニュー・ド・ショワジーやトルビアック通り周辺は、アジア系レストランやショップが並び、活気のある街並みが広がっています。全体として治安は安定しており、観光客が少ないためスリや詐欺の被害は限定的です。
ただし、旧正月などのイベント時には人出が増え、混雑に伴うスリや置き引きのリスクが高まることがあります。また、高層住宅地の一部では夜間に人通りが少なくなるため、遅い時間帯の一人歩きには注意が必要です。
再開発が進む地区でもあるため、治安状況は比較的良好といえますが、旅行者は基本的な警戒を怠らない方が安心です。
14区:モンパルナス駅周辺と住宅街
14区はパリ南部に広がる住宅街で、落ち着いた雰囲気から治安が良いとされる地域です。カフェや地元向けの商店が並ぶ穏やかな街並みが特徴で、観光の拠点としても人気があります。
一方で、モンパルナス駅周辺は別です。長距離列車やTGVが発着する大規模ターミナル駅であり、旅行者が多く集まるため、スリや置き引きの被害が散発的に発生しています。大きなスーツケースを持っている旅行者は狙われやすいため、荷物から目を離さないように注意が必要です。
駅を離れれば治安は安定しているため、宿泊地としては十分おすすめできます。
15区:落ち着いた住宅街
15区はパリの中でも最大規模の区で、全体として住宅街が広がる落ち着いたエリアです。治安の良さはパリ市内でも上位に挙げられることが多く、家族連れや旅行者に人気があります。観光スポットが少ないため、犯罪リスクは比較的低いのも特徴です。
ただし、区の北端はエッフェル塔に隣接しており、塔の南側一帯では観光客が集まるため軽犯罪が発生する可能性があります。もっとも、区全体で見れば大きな問題は少なく、夜間でも比較的安心して歩ける地区です。
滞在先としては非常に適した場所といえるでしょう。
17区:高級住宅街と移民街が隣接
17区は「治安が混在する区」の典型といえます。西部のテルヌ広場やモンソー公園周辺は高級住宅街が広がり、落ち着いた雰囲気の中で安全に過ごすことができます。宿泊先としても安心感があり、治安面で不安を感じることは少ないでしょう。
一方、東部のクリシーやバチニョール周辺は事情が異なります。移民が多く住む地域で、夜間は人通りが減り、トラブルに巻き込まれるリスクが指摘されています。軽犯罪の被害もこの一帯で報告されることが多く、同じ区内でもエリアによって印象が大きく変わる点に注意が必要です。
このように13区、14区、15区、17区は、全体としては穏やかで住宅街らしい落ち着きを持ちながらも、駅周辺や一部のエリアに注意が必要な「混在型」の治安状況にあります。宿泊地として選ぶ際には、区全体の評判だけでなく、具体的にどの地区に滞在するかを考慮することが、安全に過ごすための重要なポイントとなります。
このように13区、14区、15区、17区は、全体としては落ち着いた住宅街が中心ですが、駅周辺や一部の地域では注意が必要な「混在型」の治安状況にあります。宿泊地として選ぶ際には、区全体の評判だけでなく、具体的にどの地区に滞在するかを考慮することが重要です。
また、これらの区の周縁部に広がる大規模公園や人気の少ないエリアは、昼間はのんびりと過ごせる一方で、夜間は治安上の不安が指摘されることがあります。訪れる場合は明るい時間帯にとどめ、夜に立ち入るのは避けるのが無難です。
安全エリア(緑色)
緑色で示したのは、パリの中でも特に治安が安定しているエリアです。
住宅街が中心で観光スポットは限られますが、落ち着いた環境を求める旅行者にとっては安心して滞在できる地域です。
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16区:高級住宅街と大使館エリア
16区は大使館や高級マンションが並ぶパリ西部の高級住宅街で、市内でも最も治安が良い区のひとつとして知られています。凱旋門の西側からモンソー公園、そしてトロカデロ広場にかけては観光名所も点在し、落ち着いた雰囲気と洗練された街並みが広がります。
区の大部分は住宅街で、観光客を狙った犯罪は少なく、宿泊地としても安心して選べるエリアです。なお、トロカデロ広場周辺は人が集中するためスリが報告されることもありますが、基本的には全体として治安が安定している地域といえるでしょう。
小括
ここまでの区別ごとの整理を通じて分かるのは、パリの治安は一律ではなく、区ごとの特色によって大きく差があるという点です。
赤色で示した地域は日常的にトラブルが起きやすく、旅行者には宿泊地として不向きです。黄色の中心部は観光の華やかさと引き換えに人混みを狙った軽犯罪が目立ちます。黄緑のエリアは住宅街としての落ち着きと駅周辺のリスクが同居し、緑色の16区は全体的に治安が安定しているのが特徴です。
このように、パリでは「どの区にいるか」でリスクの度合いが大きく変わるため、旅行者は行き先や宿泊場所を選ぶ段階から治安情報を考慮することが重要です。
そしてもう一つ見落とせないのが、同じ場所でも季節や時間帯によって治安リスクが変動するという点です。次の章では、パリを訪れる季節ごとに注意すべきポイントについて解説していきます。
季節によって変わる治安リスク
パリの治安リスクは一年を通じて存在しますが、季節によって観光客の行動や街の雰囲気が変化するため、注意すべきポイントも異なります。ここでは春夏秋冬ごとに、通常よりも警戒が必要になる特徴的なリスクを整理します。
春(3〜5月)
観光シーズンが始まり、ルーヴル美術館やエッフェル塔といった主要スポットには世界中から旅行者が集まります。混雑の中で観光客を狙ったスリや置き引きが特に増えるのがこの時期の特徴です。
屋外のカフェやレストランのテラス席も人気ですが、椅子の背に掛けたバッグを持ち去られるケースが繰り返し報告されています。
夏(6〜8月)
観光客が最も多く、軽犯罪の発生件数もピークを迎えます。特にフランス全土で祝われる音楽祭「フェット・ド・ラ・ミュージック」や野外イベントの会場周辺は混雑が激しく、スリの格好の場となります。
また7〜8月は現地住民の多くがバカンスに出るため、市内には観光客が目立ちやすく、狙われやすい環境が生まれます。夜の繁華街では酔客絡みのトラブルや喧嘩に巻き込まれるリスクもあります。
秋(9〜11月)
夏に比べ観光客は減少しますが、日没が早まり夕方以降に暗くなるのがこの季節の特徴です。
特に11月には17時頃には街が暗くなり、昼間と同じ感覚で観光を続けると不安を感じる場面が増えます。照明の少ない裏通りや公園では雰囲気が一変し、スリだけでなく強盗のリスクも高まると指摘されています。
冬(12〜2月)
クリスマスマーケットや年末年始のイベントで街は華やぎますが、観光客の密集によってスリや置き引きの被害が増える時期です。
シャンゼリゼ通りや市庁舎前のマーケットは特に狙われやすく、財布やスマホを奪われるケースが頻発しています。寒さで手袋をしていたり厚着で動きにくいことも、注意力の低下につながりやすいため警戒が必要です。
よくある詐欺の手口&対策を知っておこう
パリでは観光客を狙った詐欺が多発しており、その多くは「旅行者の不注意」や「善意」を逆手にとる手口です。代表的なものを知っておくことで、現地で不審な状況に出会った際に冷静に対処できるようになります。ここでは特に多い6種類を紹介します。
スリ
パリで最も多発する犯罪であり、観光客だけでなく現地の人々も日常的に被害に遭っています。
メトロのスリは在住者も含めて多くの人が被害に遭っている犯罪。
犯人には若者グループが多いのが特徴で、メトロのプラットフォームなどでカモになりそうな人を常に品定めしています。メトロの駅で電車に乗らずうろうろ・キョロキョロしている若者グループを見かけたら警戒しましょう。
パリのメトロは運行間隔が短めなので、来た電車がもし満員であれば、無理せず次の電車を待つのがおすすめです。
乗車したら面倒でも車両の奥へ。空席があったら座りましょう。もし誰かが道をふさいでいたら、「パルドン」と言えば退いてくれるはずです。
疑わしいグループがいた場合には、こちらが「警戒しているぞ」というオーラを出すだけでも彼らを遠ざける効果があります。
置き引き
パリで非常に多い典型的な窃盗の一種。観光客がリラックスしている時間を狙って犯行が行われます。
もちろん油断していれば在住者でも狙われるので注意が必要。
ちょっとした気のゆるみを狙ってくる軽犯罪。
不自然に質問してきたり音をたてたりして貴重品から注意を逸らすパターンもあるので、とにかく所持品に注意を向けておくか、もし注意が逸れても盗まれたりしないような対策(ストラップを付けておくなど)が必須です。
署名詐欺
パリの観光地で見られる典型的な詐欺のひとつ。

カモになりそうな観光客を見つけると「Do you speak English?」などと言いながら近づいてきます。
この詐欺を働くのは主に女性。数人でボードを持って観光地をうろうろしているので遠目で分かることも多いですが、人混みに紛れていきなり目の前に現われることもあります。
一見すると学生や若い女性グループの「チャリティ活動」に見えるため思わず足を止めてしまう人が多いですが、署名用紙は詐欺集団が使い回しているものであり、観光客を狙った典型的なスキーム。
寄付金の強要とスリなどの別の犯罪がセットになっているので、とにかく隙を見せないように!単独に見えて仲間が周辺にいるパターンが多いので、注意は常に全方位に向けましょう。
ミサンガ詐欺
パリの観光地、特にモンマルトル周辺でよく見られる典型的な詐欺。旅行者の腕に勝手にブレスレット(ミサンガ)を巻きつけ、代金を請求する手口です。

この手口を働くグループは、手に紐を持っているので遠目からでも見分けやすい場合があります。
サクレ・クール寺院に上がる坂道の通路で関所のようにスタンバイし、通路を通過する人に話しかけてミサンガを巻こうとします。強引に腕を掴むような手荒な手段を取ることもあるので、近づいてきたら速やかにその場を離れましょう。
毅然とした態度で断ることはもちろん大切ですが、相手は基本的に体格が良く、かつ基本的に数人のグループで居るので、対応を誤ると身の危険も考えられます。挑発するような態度は決して取らないように!
もし振り切る自信が無ければ、フニキュレル(ケーブルカーのような乗り物)や脇の階段を使ったり、ラマルク・コランクール駅など観光地とは逆の駅からサクレ・クール寺院にアクセスするのが安全です。
イカサマ賭博
観光客が集まる場所でしばしば目にする違法賭博。簡単なゲームに見えて、実際はすべて仕組まれている詐欺です。

この賭博は仕込みの仲間が複数人いるケースが多く、観光客が勝てる見込みはほとんどありません。警察が来ると一瞬で散り、証拠も残らないため、泣き寝入りするしかありません。
観光客も自分の意思でゲームに参加しているという側面があり、そこまで強く相手を非難できないという弱みも…。
一見すると「観光名物の大道芸」や「ちょっとした遊び」に見えますが、実態は観光客を狙った集団詐欺。財布を出した時点で周囲の仲間にスリをされる危険もあります。
このような場面を見かけると興味本位で観戦したくなりますが、そのような好奇心が利用されてしまいます。
タクシー関連犯罪
パリでは「正規のタクシーを使っているつもりなのに高額請求された」「空港出口で声をかけられた車に乗ったら強盗に遭った」といった被害が後を絶ちません。手口はいくつかに分かれますが、根本的な対策は同じです。
結局のところ、パリでのタクシー犯罪はすべて「正規の手段を使わないこと」から始まります。裏道を通るよりも、公式ルートを選ぶことが最も安全で確実な予防策です。
またUberなどの配車アプリを利用する場合であっても、手数料を嫌って運転手から「予約をキャンセルしてもらえればそれよりも安い料金で乗せる」という提案をされる場合があります。
万が一トラブルや事件に巻き込まれた場合であっても利用者側が保護を受けられなくなるので、そうした提案は決して受けないようにしましょう。
偽警官による所持品検査詐欺
一見すると正規の警官に見える人物に「身分証や所持品を見せてください」と言われ、財布やパスポートを盗まれる手口。パリ観光地で時折報告されています。
実際のところ、正規の警官が路上で外国人観光客の財布や現金を調べることはほとんどありません。観光地でこのような声かけを受けたら、まず詐欺を疑いましょう。
スリ+連携型
観光客が「親切そうな人」に声をかけられた瞬間に、別の仲間が財布やスマホを抜き取るという手口。単独犯のスリより巧妙で、気づいた時には複数人に囲まれている。
このタイプの犯行は「親切な観光客」や「現地の人」を装うため、つい安心してしまいがち。好意的に見える接触ほど、まずは警戒心を持つことが肝心。
盗られたら困るものは基本的に自分の手から離さないことが基本です。
偽チケット販売詐欺
チケットの購入に手間取っている旅行者を手伝うふりをしたり、「公式より安く買える」「便利だから」などと声をかけてチケットを買わせる典型的な詐欺。
見た目は普通のチケットでも、実際には使用済み・偽造・無効(もしくは有効だが種別が合わない)のものが多く、改札や入口で止められたり、罰金を取られたりすることになります。

クレジットカードの暗証番号を盗み取ったりするパターンもあるので油断できません。
メトロでの偽チケット販売
- 駅の券売機で戸惑っている観光客に「手伝ってあげる」と近づく(駅係員を装うパターンもある)
- 「この機械は壊れている」「もっと安いチケットがある」と言いながら、無効チケットや子供用の割引チケットなどを売りつける
- その場では改札を通れても、すぐに検札員に見破られ高額な罰金を科されることも
美術館・観光地での偽チケット販売
- ルーヴル美術館やヴェルサイユ宮殿など人気スポットの入口付近で「余ったチケットがある」と勧められる
- 実際は使用済みで入れない、もしくは偽物
- 公式窓口や公式サイトでの購入以外はすべて危険と思った方が良い
この詐欺を避けるには、券売機の前などでおどおどしないこと。
事前にチケットの購入方法を把握しておく、事前購入やオンライン購入が可能なら先にチケットを入手しておく、といった手段を取れば、この詐欺はほぼ確実に回避できます。
ひったくり・強盗
スリや置き引きに比べれば件数は少ないものの、暴力や脅迫を伴うため被害が深刻になりやすく、旅行者にとって特に注意すべき犯罪のひとつです。
ひったくり
- 路上でバッグやスマホを強引に奪って逃走する手口
- 特に夜間、人通りが少ない場所や、スマホを歩きながら使用している時に狙われやすい
- 電動キックボードやバイクを使って走り去るケースもある
強盗
- 夜道や人気のないエリアで複数人に囲まれ、金品を要求される
- 抵抗すると暴力を振るわれる危険が高い
- 偽タクシーに乗車後に脅迫されるケースもここに含まれる
これらの犯罪に遭わないためには、とにかく治安の不安定な地区に近づかない、用事を済ませたら速やかに離れる、といった対策が必要です。
治安の不安定な地区については、前章「地区ごとの治安傾向」を参考にしてください。
小括
ここまで紹介した犯罪の多くは、観光客の不注意や油断のスキを狙ったものです。
署名詐欺・ミサンガ詐欺・イカサマ賭博・偽チケット販売・偽ガイド案内…いずれも「声をかけられ、立ち止まってしまった瞬間」から始まります。
対策はシンプルで共通しています。
- 路上で声をかけてくる人には関わらない・無視を徹底する
- チケットやサービスは必ず公式ルートで手配する
- 貴重品は常に自分の目と手の届く範囲で管理する
つまり「親切に見える接触=仕掛けの可能性がある」と心得ておくだけで、被害の大半は防げます。
詐欺の手口は年々変化しますが、“観光客の心理を突く”という本質は同じです。どんな状況でも「本当に安全か?」と一歩引いて考える習慣を持つことが最大の防御策になります。
次の章ではパリの歴史と治安の相関関係を解き明かします。
具体的な防犯対策を早く知りたい方はこちら(次章をスキップします)。
パリの南北問題:なぜ地域によって治安差が生まれるのか?
この項目では、なぜパリでは北側(右岸)や東側の治安が悪くなりやすいのか?なぜ反対に南側(左岸)や西側は治安が良い傾向があるのか?を歴史を紐解きながら考えます。
都市改造がもたらした人口移動と地域分断(1853〜1870年)
1853年から1870年にかけて、ナポレオン3世の下でセーヌ県知事ジョルジュ=オスマンが大規模な都市改造を実施。中世以来の入り組んだ街路や不衛生な住宅街は大通り、公園、上下水道に置き換えられ、中心部は近代的な首都へと姿を変えました。
しかし、この再開発は同時に地価と家賃を押し上げ、低所得層の住民を北部・東部の旧市壁外へ押し出しました。
1860年の市域拡張でベルヴィルやモンマルトルなどの労働者地域がパリに編入されましたが、これらは依然として低所得層の密集地として残りました。
下図は1864年当時のパリの行政区画と街路構造を示した地図です。オスマン改造の大通りが中心部を放射状に貫き、再開発によって地価が上昇した地域と、まだ再開発が及ばない北東部・東部の密集地との対比がはっきりと見て取れます。また、1860年の市域拡張でベルヴィルやモンマルトルといった労働者地区が編入された直後で、中心部と周縁部の経済的・社会的差異が既に形成されつつあったことがわかります。

工業化と鉄道網が生んだ東西格差と多様なコミュニティ(19世紀後半〜20世紀前半)
19世紀後半、産業革命の進展とともにパリも急速に工業化しました。
特に北東部では工場が集積し、労働者住宅が密集する地域が形成されました。パリでは偏西風により、工場の煤煙は東側に流れ、西側は空気のきれいな住宅地として開発が進みました。こうして「西=富裕層」「東=労働者・低所得層」という地理的構造が形成され、現在にまで続く地域間の経済格差の基盤ができあがります。
この時期、鉄道網の整備も急速に進みました。北駅(Gare du Nord)や東駅(Gare de l’Est)は国内外を結ぶ主要ターミナルとして発展し、工業地帯や労働者居住地に近接する立地から、駅周辺には宿泊施設、飲食店、荷扱所が集まりました。こうした駅は昼夜を問わず流動人口が多く、早くから雑多で活気のある一方、治安リスクを抱える空間としての性質を持ち始めます。
下図は、Petite Ceintureの全体路線を可視化した1867年ごろの地図です。新たに整備された南側ライン(Rive Gauche)が完成し、パリ市内を一周する鉄道ネットワークがほぼ揃ったタイミングで、営業開始前後の鉄道構造と都市交通の変化を直感的に理解できます。

北東部の人口は、地方からの移住者だけでなく、国外からの労働者によっても多様化していきました。19世紀末から20世紀初頭にかけて、イタリア系、ポーランド系、ユダヤ系などの移民が到着し、職人、建設労働者、工場労働者として定着しました。彼らは同郷の人々と密接なコミュニティを築き、宗教施設や商店街、文化団体などを通じて独自の生活圏を形成しました。
こうした北東部の姿は、工業化と鉄道網整備によって経済的・物理的に固定化された居住パターンと、多様な民族的背景を持つ人々の流入が組み合わさった結果でした。この段階で既に、地域ごとの経済格差と人口構成の違いが都市空間に明確に刻まれ、後の治安構造にも影響を与える土壌が形作られていました。
戦後の移民流入と郊外住宅政策(1945年以降)
第二次世界大戦後、フランスは経済復興のために旧植民地から大量の移民労働者を受け入れました。北アフリカ(アルジェリア、モロッコ、チュニジア)やサハラ以南アフリカからの労働者がパリ地域に到着します。
1960年代以降、こうした移民や低所得層の住居として郊外にHLM(公営住宅)が大量に建設され、パリ中心部から離れた地域に人口が集中しました。
下図は1950年代から1965年にかけて新たに整備された集合住宅群(grands ensembles)の位置を示したものです。これらは主にパリの中心部ではなく、『都市化の限界』沿いや都市周辺部に集中しており、現在も貧困地域と社会的脆弱性が重なる傾向のエリアであることが明確に読み取れます。

この時期、鉄道網も拡大し、RER(高速郊外鉄道)やメトロ延伸によって郊外と都心が直結します。特にRER B線(1977年運行開始)は空港と北駅・シャトレを結び、郊外の治安不安定地域と観光地・商業地を直接つなぐルートとなりました。
結果として、駅や路線上は社会経済的背景の異なる人々が日常的に交わる場となり、混雑や匿名性を背景にスリや詐欺など機会型犯罪が発生しやすい環境が形成されました。
小括:現代の治安構造への影響
現代のパリにおける治安差は、この150年以上の都市改造・工業化・住宅政策・交通網整備の蓄積によって形作られています。
北東部は歴史的に低所得層や移民が多く住む地域であり、そこに鉄道やRERが直結することで、駅周辺や観光地は人の往来が激しく、軽犯罪の発生率が高くなっています。一方、西部や南部の富裕住宅地は、歴史的経緯から人口構成や経済状況が安定しており、比較的治安が良いとされます。
このように、現在のパリの治安地図は、単なる「危ない場所の分布」ではなく、都市構造と人口動態の歴史的積み重ねを反映したものなのです。
“危険を読む力”を持って歩くために
ここまでパリの治安傾向やよくある犯罪の手口を紹介してきましたが、実際に街を歩くときに最も重要なのは、その場で危険を察知し、行動を変える力です。
単に「スリが多い」と知っているだけでは不十分で、「今まさに狙われているのではないか?」という兆候を感じ取れるかどうかが、被害に遭うかどうかの分かれ目になります。
危険を読む力は大きく三つの視点に分けられます。
- まずは「人の挙動から危険のサインを観察すること」。
- 次に「周囲の状況を判断して安全な行動を選ぶこと」。
- そして「狙われやすい人と狙われにくい人の違い」を理解すること。
この三つを意識して街を歩くだけで、防犯力は格段に高まります。
さらに、この三つを持ったうえで、被害に遭いにくい環境づくり&被害に遭ってしまったときのリカバリー手段を用意しておくと完璧です。
危険のサインを観察する
パリのスリや詐欺は、何の前触れもなくいきなり起きることは少なく、多くの場合「前兆」があります。こうしたサインに気づくことができれば、被害に遭う前に回避することが可能です。
旅行中は景色や買い物に気を取られがちですが、危険のサインを観察する習慣を持つだけで安全性はぐっと高まります。
代表的なサインを紹介します。
- 不自然な接触
メトロや観光地の混雑の中で、必要以上に体を押しつけてくる人や、繰り返し肩や腕に触れてくる人がいたら注意が必要です。単なる偶然に見せかけながら、財布やスマホを狙っている可能性があります。 - 注意をそらす行為
チラシや署名板を差し出してきたり、新聞をテーブルに広げたりする人も要警戒です。これは「会話や視線を奪う」ことで注意を逸らし、その隙に仲間が貴重品を抜き取る典型的なパターンです。大きな音も注意をそらすためのツールとして使われることがあります。 - 不自然な集団行動
犯罪は常に単独で行うとは限りません。意味もなく一か所に留まっているような集団がいたら要警戒。さらに一人が観光客に話しかけ、もう一人が背後や横に回り込んでいるときは特に危険です。無意識のうちに数人に囲まれる形になり、気づかぬうちに逃げ道を塞がれていることがあります。 - グループを分断する動き
犯人はあえて人混みを利用して間に割り込み、グループの誰かを孤立させようとすることがあります。グループの一人が取り残されていると気づいたときはその人が狙われているサインかもしれませんし、逆にそちらに気を取られている側にスリを働くケースもあります。
このように「ちょっとおかしいな」と思った瞬間が、すでに危険の兆候です。声をかけられても立ち止まらず、すぐにその場を離れることが、最も効果的な防御策になります。
状況判断で安全な行動を選ぶ
危険のサインは人の挙動だけではなく、周囲の環境からも読み取ることができます。街を歩いていて「落ち着かない」と感じたら、その直感は無視すべきではありません。
環境に現れる危険の兆候には、たとえば次のようなものがあります。
- 管理が行き届いていない街並み
街灯が少なく暗い通り、ゴミが散乱している場所、荒れた落書きが放置された建物は「誰も気にしていない空間」であり、犯罪が発生しやすい環境です。パリの街並みはどれも同じように見えますが、よく観察すると「整然としている通り」と「荒れている通り」の違いが見えてきます。 - 人通りの“質”が悪い
家族連れや買い物客が多い通りは比較的安心ですが、所在なげに立ち話をしている若者グループや、じっと様子をうかがう人ばかりが目立つ通りは避けるべきです。通行人の服装や雰囲気を観察すると、その地区の性質が分かることがあります。 - 場違いな空気
観光地から少し外れただけで雰囲気が変わり、地元の労働者や若者が多く滞留するエリアに迷い込むことがあります。旅行者にとって“アウェイ”な環境は狙われやすくなります。特にアジア系の旅行者はそうしたエリアでは一層目を引きやすいため注意が必要です。
こうしたサインを感じ取ったら、速やかにその場を離れる、引き返す、足早に通り過ぎるといった行動が必要です。不安を感じる場所に長時間滞在しないという判断こそが、安全を守る最もシンプルで確実な方法です。
狙われやすい人・狙われにくい人
犯罪者は無差別に誰でも狙うわけではありません。常に「最も簡単に奪えそうな相手」を探しています。つまり、自分の立ち居振る舞いによって被害に遭う確率を下げられるのです。
狙われやすい人の特徴には、次のようなものがあります。
- 無防備な行動
スマホを手に持ったまま歩く、財布を後ろポケットに入れる、バッグを椅子や床に置いたままにするなど、隙の多い持ち方は狙われやすくなります。 - 観光客らしい挙動
地図を広げて立ち止まる、キョロキョロと落ち着きなく周囲を見回すなど、「土地勘がなく警戒心が低い」というシグナルを発しています。 - 目立つ服装や持ち物
高級ブランドのバッグや財布、派手なアクセサリー、大きなカメラを首から下げて歩くスタイルは「お金を持っている旅行者」という印象を与えます。さらに、お土産の紙袋や空港から直行したような大きなスーツケースも観光客らしさを際立たせます。
また、斜め掛けバッグやスマホストラップは便利ですが、旅行者がよく使うため“観光客らしさ”を強調してしまう場合があります。
一方で狙われにくい人には、次のような特徴があります。
- 荷物をしっかり管理
バッグは体の前で抱え、ファスナーを閉めて持ち歩く。必要のないときはスマホやカメラを出さない。 - 周囲に意識を向けている
歩きながらも周囲の様子に注意を払い、不自然な接触や視線をすぐに察知できる。 - 落ち着いた服装
シンプルで目立たない服装(黒や紺、グレーなど)を選び、旅行中は高価な時計やアクセサリーを外す。地元の人に完全に溶け込む必要はありませんが、「観光客です」と強調しないことが大切です。
完璧である必要はありません。観光客の中で「この人は面倒そうだ」と思わせるだけで、犯人にとっての優先順位から外れるのです。
バックアップを用意しておく
どれだけ注意していても、トラブルを完全に避けることはできません。大切なのは「万一に備えてバックアップを用意しておくこと」です。そうしておけば、予期せぬ状況でも慌てずに行動できます。
- 緊急連絡先を控えておく
日本大使館・領事館、クレジットカード会社の海外緊急番号、現地の警察や救急の番号はスマホだけでなく、紙に控えてパスポートと一緒に携行しましょう。 - たびレジに登録しておく
外務省の「たびレジ」に登録すれば、現地の治安情報や緊急時の注意喚起をメールで受け取れます。万一事件やテロが起きた際、最新情報が届くのは心強いサポートです。 - 体力に合わせて余裕を持った日程を組む
スケジュールが詰まりすぎて疲労が溜まると、注意力が落ちてスリや詐欺に遭いやすくなります。余裕のある日程にして、しっかり休むことも防犯の一部と考えましょう。 - 貴重品のバックアップを作っておく
パスポートや航空券、保険証書はコピーを取り、オリジナルとは別の場所に保管しておくと安心です。クラウドやセキュアなメモアプリにデータを保存する方法も有効です。証明写真も用意しておくと、万が一パスポートが盗難に遭っても日本帰国用の仮旅券発行に役立ちます。 - 海外旅行保険に加入しておく
盗難やスリ、病気やケガは、どれだけ注意していても避けきれないことがあります。そんなときに最終的に頼れるのが旅行保険です。スマホやカメラなどの盗難補償、病院での治療費補償が付いているプランを選ぶと安心です。
こうしたバックアップがあれば、「何かあっても対処できる」という安心感が生まれます。それが最終的には、旅行中に冷静さを保ち、危険を回避する力につながります。
パリで安全に過ごすためには、単に犯罪の手口を知るだけでなく、現場で危険のサインを読み取り、自ら回避する力が欠かせません。
人の不自然な挙動に気づくこと、街の雰囲気から危険を感じ取ること、そして狙われやすい行動を避けて毅然とした態度を示すこと―この三つを意識するだけで、防犯力は格段に高まります。
さらにバックアップを用意しておくことで精神的な余裕を持つことができますし、もしものときのリカバリーも早くなります。
もちろん、すべてを完璧にこなす必要はありません。大切なのは「少し敏感に」「少し慎重に」行動することです。そのわずかな差が、犯罪者から見たときに「狙いやすい相手」か「面倒な相手」かを分ける決定打になります。
観光客である以上、完全に現地の人と同じように振る舞うことはできません。しかし、危険を読む力を身につければ、「旅行者であっても被害に遭いにくい人」になることは十分に可能です。
安全対策に役立つグッズとサービス
旅行中の安全対策は、心構えや行動だけでは不十分です。
実際に役立つグッズやサービスを用意しておけば、「不安を感じたときにどうすればいいか」が明確になり、安心して旅を楽しめます。
ここでは、パリ旅行を安全に過ごすためにおすすめのアイテムとサービスを紹介します。
ご自身の条件に合わせて持ち物の参考にしていただければ幸いです。
貴重品管理に役立つグッズ
パリで最も多い被害はスリ。気づかないうちにパスポートや財布を失ってしまえば、旅行どころではありません…。
「常に手に持っているから大丈夫」と思っていても、わずかな隙を突かれるのが現実です。
まず代表的な貴重品管理グッズがマネーベルト。
マネーベルトに貴重品を入れておけば、周囲の安全を必要以上に気にしなくても良くなります。
パリでも広く普及しているキャッシュレス決済。カードを持ち歩く場面も増えています。
スキミング防止財布を使えば、最近増えている電子スリにも対抗できます。
「盗まれるかも」という不安は、これらの専用グッズでかなり軽減できますね。
スリ・置き引き対策のグッズ
観光の途中、カフェや空港で「ちょっと目を離した隙」に荷物が消えていた―そんな被害は少なくありません。
ホテルでも置いていた貴重品が盗まれてしまうことがあり、場所を問わず油断できません。
例えばメトロ乗車時などにバッグ用ロックやファスナークリップを使えば、リュックやショルダーバッグのファスナーを簡単に開けられなくなります。ダイヤル式であれば鍵を失くす心配もありません。
さらにフランスで長距離電車を利用する際に荷物置き場に置いたスーツケースを盗まれる被害も発生しています(指定席が荷物置き場から遠く、荷物に目が届かないことがよくある)。
ワイヤーロックを使って荷物置き場に荷物を固定すれば、荷物の持ち去りを防ぐことができます。
またスマホもよく狙われるアイテムの筆頭。特に日本人が多く持っているiPhoneは大人気なので、使用中にひったくられたり、カフェのテーブルに置いていたら一瞬で無くなったり…なんてことも。
スマホリングのようなアイテムを使えば、そのような被害を防ぐことができます。
さらにAirTagをスーツケースや貴重品につけておくことで、万が一盗難に遭った際にも荷物を追跡することができます。筆者はロストバゲージに遭って以来、AirTagを常にスーツケースに入れています。
いつでも通信できる安心環境
旅行中にネットがつながらない状況ほど不安なものはありません。
地図が開けない、翻訳アプリが使えない、緊急時に家族へ連絡できない―そんな場面でトラブルは起こりがちですし、トラブルが起きたときも各所への連絡にやっぱり通信環境が必要になります。
日本出発前にSIMカードを購入しておけば、フランスの空港到着直後からネットが使えて便利。空港のSIM販売カウンターの有無や営業時間を気にしなくても良くなるので、特に初めてのフランス旅行なら精神的にかなり楽です。
日本で入手できるフランス対応のSIMには物理SIMとeSIMがありますが、おすすめは思い立ったらすぐにインストールできるeSIM。
airaloのeSIMは1GB/7日~など容量と有効期間を選んで購入可能。到着直後から通信できて安心です。
このブログ限定の割引特典もあるのでチェックしてみてください。

スマートなお金管理の手段
海外旅行のもうひとつの不安は「お金」。
両替所で法外なレートを取られたり、大金を持ち歩いてスリに狙われたり―現金管理はリスクがつきものです。
そんなときに便利なのが、海外送金で有名なWISE(ワイズ)が発行しているデビットカード。
40を超える通貨に対応しており、あらかじめ日本円をチャージしておけば利用時に自動的に両替されてユーロで決済できるほか、少額のユーロ現金を現地ATMで引き出すことも可能です。
デビットカードなのでクレジットカードとは違って使いすぎる心配もありませんし、万が一盗難に遭ってもチャージ額以上の損失が出ることがないため、防犯の観点からも優秀です。
詳細はこちらの記事からどうぞ!

安心して歩ける便利アイテム
ちょっとした工夫で「観光客っぽさ」を減らしながら快適に過ごせるグッズもあります。
代表的なのがエコバッグ。パリのスーパーマーケットではビニール袋が有料なので、ひとつ鞄に忍ばせておくと思い立った時に買い物ができます。
お土産やブランド品を購入する際にも、商品を詰め替えることでスリのターゲットになる可能性を減らすことができます。
またスマホはいざというときの生命線なので、モバイルバッテリーも必須。軽いものがあればベスト。
パリでスマホの充電ができる場所は日本と比較してかなり少ないです…。
まとめ
不安要素として取り上げられることの多いパリの治安。
確かに日本よりは気を引き締めて行動しなければいけない場面は多いですが、実際にはエリアや時間帯によって差があり、典型的な犯罪手口も決まっています。
本記事でご紹介したエリアごとの治安傾向やよくある詐欺の手口などを把握して、いつもの行動を少し変えるだけで被害の可能性を最小限に抑えることが可能です。
そしてもちろん、パリを訪れるすべての旅行者が危ない目に遭うわけではありません。
むしろ大多数の人は被害に遭うことなく、美しい街並みや芸術、食文化を思う存分楽しんでいます。
大切なのは「怖いから行かない」ではなく、リスクを理解して上手に回避しながら楽しむ姿勢。
パリの街並みは美しいですし、楽しいことや感動する体験もたくさんあります!

パリはテーマパークではありませんが、別に着くなり身ぐるみ剝がされるような世紀末シティーでもありません…笑
少しの知識と準備があれば、余計な心配をせずにパリの魅力を堪能できます。
どうぞ、安全で素敵なパリ旅行をお過ごしください。
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